Vol.3 No.4 2010
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研究論文:いかにしてカーナビゲーションシステムは実用化されたか(池田ほか)−299−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)査読者との議論議論1 論文全体コメント(景山 晃:産業技術総合研究所イノベーション推進本部)カーナビゲーションシステムとして、広範囲の要素技術をコンパクトにまとめた論文としてシンセシオロジーに相応しい内容になっていると思います。ある製品が世の中に出るために求められる技術群の領域の広さを示すと同時に、目的に沿ってどの技術を採用し、逆にどの技術を捨てたのか、また、その技術と他領域の技術とをどのように融合させたのかは、企業における研究開発マネージメントの事例として大変貴重な論文です。また、限られた誌面の中で、研究開発マネージメントの重要な側面として、(財)日本デジタル道路地図協会の設立や企業間連携、官公庁との連携等の重要性に触れてあり、シンセシオロジーの典型的な論文だと思います。議論2 各要素技術の融合化の全体像コメント(景山 晃)本論文では要素技術として、(A)位置検出技術、(B)経路計算技術、(C)経路案内技術が基本であることを述べています。マップマッチング技術を皮切りに、(A)を完成させるための候補技術、(B)を完成させるための複数の技術、(C)を完成させるための幾つかの技術を記述してあります。分野外の読者の理解を助けるという意味で、これらカーナビを実用に耐える技術として仕上げるための要素技術群を、図または一覧表で載せてはいかがでしょうか。実に多様な技術が不可欠であることが読者に一層よく伝わるように思います。コメント(赤松 幹之:産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門)マップマッチング技術、位置同定技術、デジタル地図、経路計算技術等の大きな技術要素ごとに、時代によってほかの要素(GPS、CPU、ストレージデバイス)によって、どのように技術の選択が変化していったのかが図示できると、技術動向に合わせてダイナミックにシナリオが変化していったことが読者に直ちに理解してもらえると思います。回答(池田 博榮)要素技術間の関係を、「5まとめ」の章に図7として挿入しました。議論3 多種のハードウエア技術を統合制御するソフトウエア技術開発の重要性コメント(景山 晃)センサー技術だけでなく、ソフトウエア技術が重要であることが述べられていますが、OSを含めたソフトウエアの研究開発の重要性をもう少し強調して記述された方がよいと思います。センサー技術とデジタル地図との融合や位置ずれの補正技術、電波または光ビーコンからのデータ処理技術等のソフトウエアも重要な役割を担っていると推察します。回答(池田 博榮)ご指摘のとおり、カーナビはソフトウエア技術が重要な車載装置であり、車載装置の中でも群を抜いて大きなソフトウエア量となっています。本論文では、3.1振動ジャイロの節において、光ファイバージャイロよりも単体性能、とりわけドリフト値において相対的に劣る振動ジャイロを使うようにするためのソフトウエアの工夫を追記しました。また、ビーコン受信については、受信後の割り込み画面への切り替え等負荷が集中し、内部的に複雑な処理が求められたことを記載しました。議論4 技術開発の展開質問(景山 晃)ソフトウエアの開発費用が膨大となり、住友電気工業(株)(以下、住友電工という)としては事業を撤退せざるを得なくなったと論述されています。カーナビシステムの黎明期に業界を引っ張った住友電工の撤退は大変残念な出来事ですが、その後、カーナビやETCが大きな産業となったことに繋がった技術、またはマネージメント上のポイントを、技術あるいは産業領域という視点から簡潔に示していただくことは可能でしょうか。回答(池田 博榮)1)大きな産業に繋がったポイント①技術的なポイントとしてはTVと同様にリピートが効く製品であり、一度使えばやめられないものであることが大きいと思います。TVも出始めには「家庭にTVは不要」といった教育的視点、家庭環境悪化といったことから不要論がありましたが、今や家庭に何台もある時代になりました。カーナビも初めの頃は車メーカーの電子技術部のほとんどの人は「車にナビは不要」と言い、「池田さん、この忙しい時に何をやっているのか、ナビ開発なんかやめろ」と言われたこともありました。その人は後でカーナビ開発の責任者になり、「池田さん、あれは誤りでした」と言われたことがありました。また当時、マーケッティング調査ではカーナビ装着を望む人は少なかった。それに対し、車メーカーのある幹部はいわゆるマーケッティング手法をまったく信用していなかったのが今でも印象的でした。「池田さん、世の中にない製品が欲しいかどうかをお客さんに聞くのは意味がない。お客さんは分かっていないのだから」と言われました。同じことがタクシーや会社のプロの運転手も「ナビは不要、地図を見れば良い」と言っていましたが、ご存じのように今ではタクシー運転手にとっても不可欠のものとなっています。そういう意味でカーナビは運転の支援システムであると言えます。そして今では、カーナビという言葉が「リクナビ・・・」等のように他分野でも使われるようになったことが、いかにカーナビが浸透したかをよく表していると思います。②車で1万円を超える部品は少なく、まして10万円を超えるものは少なかったのですが、カーナビによって高額な車載機器というものが成り立つことが分かりました。また部品のすそ野が広い機器であり、例えば車載用の液晶ディスプレーだけでも一つの市場となり得ています。③車の組み込み系ソフトウエアとして最大のものであり、かつ品質信頼性でパソコン等ほかの分野よりはるかに高品質を要求されたため、ソフトウエアの品質向上が進みました。ハードウエアもそうですが自動車関連では品質要求は高く、お客さんに不具合がすぐわかるために、一般のIT企業では純正ナビに入れない「品質WALL」による差別化ができる分野となりました。「基本的にバグが許されない世界」ですが、逆にこのことが開発マネージメントとして住友電工が陥った穴でした。2)ソフトウエアのブレークスルーソフトウエアを構成するうえで、独自化による機能差別化と、共通化による拡張の容易性を考慮する必要があります。住友電工は当初からカーナビ性能において抜きんでていたと自負しております。しかし、1995年以降はVICS対応、さらにはインターネット対応と大きな機能追加を行うべき時期が到来してきていました。その時期には共通化を目指すべきであったと考えます。しかし当時住友電工は機能差別化、高速化を図るべく独自OS開発へと進み、結果的に大きな機能追加を独自で行わねばならなくなりました。本文においても、これらのことを示すように改訂しました。議論5 ETAK社のカーナビ技術の情報質問(赤松 幹之)マップマッチング技術を最初に世に出したETAK社のカーナビは1985年だったようですが、本論文では1983年に油本氏が同技術に注目したと記載されています。これはETAK社が製品化する前から論文等でマップマッチング技術について発表されていたから知ることが出来たのでしょうか。回答(池田 博榮)1983年に当時住友電工の油本がアメリカ出張したおり、この分野
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