Vol.3 No.4 2010
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研究論文:いかにしてカーナビゲーションシステムは実用化されたか(池田ほか)−297−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)価してくれ、車輪速センサー、地磁気センサー、1/2500地図によるマップマッチングナビが、1989年シーマ、セドリックに1千台/月の企画で量産が始まったが、位置精度にはまだ課題があった。1991年セドリック、シーマにファイバージャイロを用いたものを出したが、その後日産自動車(株)は(株)日立製作所との合弁会社『㈱ザナヴィ・インフォマティクス』を設立し、自社開発体制とした。住友電工のナビは、その後トヨタ自動車(株)以外のカスタマーに採用されたが、カスタムメイド化に多大の設計工数を要し、事業的には大きな赤字となり問題となった。一方、後付け市販ナビがオーディオメーカー中心に出始め、これが主流になり始めた。将来はナビは運転支援システムとして純正ナビが主流になると読んでいたが、市販で評価されることも生き残りに重要であると考え、社内の反対があったが、市販市場に打って出た。GPSからの検出座標を元に道路上以外や湖にも現在位置を表示してしまうGPSナビが多い中、車載純正ナビで培った位置精度と経路算出の迅速さが好評を博した。4 ナビ事業展開と撤退4.1 開発費負担と事業利益確保ナビ用のハード開発や、位置検出の改良、地図表示、経路計算、経路案内、さらに全国地図の作製や更新用費用を負担しながら、事業利益確保の見通しがなければナビの事業は続けることはできない。これら費用を回収するためには、月2万台以上のナビの販売が必要であった。その当時は純正ナビの車への搭載数は、当社が納入していないトヨタ自動車(株)が高かったほかは、各自動車メーカーとも数千台/月の規模で、多い時でも受注数量は1万台/月にもならなかった。当時は、ナビの市場が爆発的に増え、採算を取ることができる販売台数にすぐなると考えていたが、バブルが崩壊して思った程市場が伸びず、結局事業採算のとれない状態が続いた。多大の地図データやソフトウエア開発費をカーメーカーに負担してもらう仕組みを作れなかったのが、ナビビジネスモデルの敗因となった。このため、何とか採算を改善することを考え、地図データベースの作成やナビ開発そのものについても他社との協業等を行った。4.2 車載ナビソフトウエア開発問題市販ナビ参入後も並行して複数のカーメーカーと純正ナビの開発も進めた。純正ナビでは、オーディオやエアコンの操作も同一画面で行う必要がある。車種が異なるとインパネデザインが変わり、インパネに配置できるスイッチの数が変わる。携帯電話で機種を変更すると操作感が大きく変わるように、一つのスイッチの増減でソフトウエアは大きく変えなければならない。これら車種への横展開とともに、1995年以降VICS受信やインターネット接続といった大きなソフトウエア新機能実現の縦展開を並行して行っていた。こういう時期にはソフトウエアを共通化して容易に機能拡張できることが、VICS対応やインターネット接続機能等の新機能をいち早く世に出すためにも重要である。先述の横展開と縦展開で、複数のカーメーカーのそれぞれの要望をかなえるには強力な開発陣容を必要とした。その結果ソフトウエア開発費が事業を圧迫するようになってきた。しかるに、当時住友電工では市販のナビをより高性能にすべく、当社独自のナビOSを開発していた。1995年発売の市販ナビはこれゆえに性能速度において高く評価された。しかし一面では特化したOSやソフト体系になってしまっており、これをベースに各カーメーカーの車種への横展開、新機能実現の縦展開をするには、OSの改造をする必要がでてきた。インターネット接続等の機能においてもブラウザを独自新規開発せねばならない等、縦機能展開への障壁となり、ソフトウエア開発費用と工数が莫大となり、カーメーカーに機能実現見送りをお願いせねばならなかった。このなか1997年に発売したナビでは、仕様の変更等でソフトウエア開発の工数として当初見積もり約200人月が完成時1,000人月を越える等費用が大幅に膨らんだことに加え、発売後ソフトウエアのバグが多発し、メンテ費用も大幅に増え、赤字幅を大幅に増やした。これがナビ市場撤退の大きな要因となった。おりから各企業では“選択と集中”がキーワードとなり、住友電工は事業損益の点で大きな赤字を続け、改善の見通しが立たないナビ事業から撤退することを決断した。5 まとめナビ開発は単なるナビソフトウエア開発のみでは実現しなかったのであり、地図DB、交通情報、通信方式、各種ハード等々、多くのインフラ構築や関連技術の開発が相まって実現したといえる。当時の建設省、郵政省、警察庁の関係者、トヨタ自動車(株)、本田技研工業(株)、日産自動車(株)等カーメーカー、(株)デンソー、三菱電機(株)、アルパイン(株)、パイオニア(株)等多くのナビメーカー、パナソニック(株)、(株)日立製作所等インフラ整備メーカー、地図メーカーの方々、小型振動ジャイロ、GPS、ディスプレー等を開発された各部品メーカーとの協力関係があってこそ、現在の普及が実現できたといえる。図7にナビに採用された技術および部品と関連する社会システムを時代を追って図示したが、この図に示すようにナ
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