Vol.3 No.4 2010
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研究論文:いかにしてカーナビゲーションシステムは実用化されたか(池田ほか)−295−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)そのためにマップマッチング処理の限界を超え、道に迷うことが度々あった。旋回角センサーの精度を上げることが必要と考え、当時住友電工で極限作業ロボット用として開発していた光ファイバージャイロ(サンプル価格は数百万円程度)を何とか安く作ってナビ用にできないかと考えた。幸い住友電工では光ファイバージャイロに必要な部品のほとんどを内製できたこともあって、それぞれの部品を量産で安く作ることや、ナビ用として精度を落としても問題ないところは低コスト化のため落とす等することで、コストを2ケタ下げることができ、車に搭載することが可能になった。光ファイバージャイロの採用により、位置を見失う頻度が200 kmに1回程度に低下するところまで性能を向上することができた。②振動ジャイロ[7]1990年以降になってナビにGPSが使用できるようになると旋回角センサーには光ファイバージャイロ程の精度は必要でなく、もっと低コストのものが求められた。当時、カメラの手ぶれ防止用の振動ジャイロが世の中に出始め、これをナビに使用できないかを考えた。カメラ用の振動ジャイロは手の動きを検出することを目的としているため、長時間にわたる零点ドリフトについては考慮されていなかった。ナビ用の要求仕様を作り、センサーメーカーに開発を依頼した。その結果、ほぼ満足できるジャイロセンサーを(株)村田製作所が開発でき、振動ジャイロに切り替えることができた。もちろん、振動ジャイロ単体性能の向上によるだけではなく、ジャイロを扱うソフトウエアにおいても走行中の零点ドリフトの推定処理やジャイロ温度測定によるドリフト量の推定等のソフトウエア機能を追加した。このソフトウエア機能により光ファイバージャイロよりも小型・安価であるが零点オフセットが5倍大きな振動ジャイロであっても採用することが可能となった。3.2 経路計算・経路案内技術の開発位置が精度良く検出されると、その次には目的地までの最適経路を求め、走行中に右左折を案内する機能が求められた。経路計算のアルゴリズムは多くが大学の研究によって産み出されていたが、多くは膨大なメモリー、高速読み出しのできる地図データ記憶媒体を前提としていた。一方、ナビにおいては1倍速のCD-ROMとコスト的に厳しく切り詰めたメモリーを使って、東京−大阪500 kmの経路計算を速やかに行うことが求められた。住友電工ではこれまでの方式では30分かかった経路計算をソフトウエアの工夫により30秒にまで高速化し、製品化した。3.3 デジタル地図の開発①地図データベースの確保マップマッチングには、デジタル化された地図データが必要であり、交差点をノード、交差点間をリンクと呼ぶ地図データ構成となる。表示目的だけで構成された地図データよりも、道路間の接続関係や一方通行規制等、はるかに緻密なデータからなる。図3において、ノードは交差点や道路の折れ曲がっている点であり、座標や交差点名、つながっているリンクの情報が含まれている。リンクはノードを直線でつないだベクトルデータであり、道路属性や道幅等の情報を含む。図4は実際の道路の例であり、高速道路への接続道路が多くのリンクから実際の曲線を模擬する形で構成されている。図5は表示地図であり、人が見やすい地図にするために、水系、建物形状、地名、施設名等の情報が含まれている。当初、ナビ各社で独自にデータ整備を始めた。住友電工の場合は、電力会社、ガス会社、地方自治体発行2500分の1の都市計画図等の詳細地図データを元に、3大都市圏の整備を行った。地方自治体の許可が必要となるため、開発者が手分けし許可を求めに各地方自治体をまわった。②財団法人日本デジタル道路地図協会[8]初期の大都市向け用途では独自開発で十分であった。しかしナビ普及の気運の高まりと共に膨大な工数と費用を必要とする地図データは民間企業が個々に行うべきことではないことが各社で認識されてきた。そこで、関係部門に働きかけた結果、当時の建設省を中心にデジタル地図を整備することとなり、(財)日本デジタル道路地図協会が設立道路種別道路巾交差点名規制情報リンク接続情報東経XX度北緯YY度ノードリンクノードとリンクの列から構成図3 道路形状データ(住友電気工業(株)提供)図4 実道路のプロット例(住友電気工業(株)提供)図5 地図データ表示例(住友電気工業(株)提供)
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