Vol.3 No.4 2010
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研究論文:いかにしてカーナビゲーションシステムは実用化されたか(池田ほか)−293−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)2 ナビの基盤となった道路の情報化技術ナビは地図上に自車位置を表示し、地図上の道路に沿って目的地に至る経路をドライバーに提示すると共に道路の渋滞状況を表示するシステムである。したがって、自動車に搭載する車載機器単独で成立するものではなく、道路インフラ側の情報化技術の開発も不可欠である。このインフラ側の開発がいち早く行われたのが我が国の特徴であった。1966年に東京銀座にて信号機と車両感知器をオンラインでつなぎ、交通流の検出から信号機の制御をコンピューターで行う交通管制システム実証実験が行われ、有効性が確認されて実用化が始まったが[2]、さらに急激に増大し始めた交通事故の防止と交通渋滞対策の必要性が課題となっていた。1973年に行われた通商産業省(当時)の自動車総合管制システム[3](CACS)では交差点にコイルを埋設し、交差点を通る車に誘導無線を用い、渋滞を避けるための進路を車載機に表示する実験が行われた。実用化には、車載機とインフラとの両方の整備が必要で、ニワトリと卵の関係で実現しなかったが、交通情報で車を空いている道路に誘導することの有効性は実証された。これとは別に、警察庁はパトカーの有効な運用の為に、センターでパトカーの位置を把握し誘導するパトカーロケーションシステム[4](以下パトロケと記す。警察用語ではカーロケータ)開発を進めようとしていた。こういった情勢のなか、道路インフラ技術に参画していた住友電工ではナビの開発の必要性を感じていた。そして、1983年当時住友電工で交通管制やCACSをリードしてきた油本暢勇氏(後の専務取締役)は米国で開発されたマップマッチング技術を知り、これを用いることでナビを実用化できると判断して、この方式での開発を決定し、着手した。その後、路車間通信システムの技術は官民の連携によって進められ、1984年には路車間情報システム(RACS)がスタートし、1987年には新自動車交通情報通信システム(AMTICS)が発足した。このように道路交通情報の収集が進み、またナビの車載化が始まり、移動体を対象とした新たな道路交通情報システム導入の機運が高まった。その結果AMTICSやRACS会員を中心に新たな会員も加わり、VICSが1991年に発足し、さらにITS(Intelligent Transportation System)へと拡大することになった。3 ナビゲーションシステムの開発住友電工におけるナビ開発は車載ナビ開発とパトロケ開発からなり、それに必要な共通の技術や部品を開発した。本稿ではナビを中心に述べる。3.1 現在位置検出技術1)マップマッチング[5]技術開発ナビの基本技術は、いま自分がどこにいるかという位置検出の技術と、目的地までの経路を計算し、その経路に沿って案内する経路計算、経路案内技術である。現在では、この基本技術の一つである位置検出は、GPS衛星を利用したシステムを使用することで比較的簡単にできるようになっている。私達のパトロケやナビ開発当初はまだGPS衛星が数個しかなく、実際にこれを用いて位置を計算できるのは1日のうちわずか1~2時間という未整備状態であり、まだ使えるものではなかった。①マップマッチング方式の開発スタートの位置がわかり、その位置からの走行距離と進行方向がわかれば、原理的には位置がわかることになる。この方法をデッドレコニングと呼ぶ。ただし、この方法はその走行距離および走行方向を検出するセンサーの精度がとても重要で、潜水艦や航空機に使用されていた高精度かつ高価なセンサーを自動車に使用するのは無理であった。この高価なセンサーを用いなくても、正しい位置検出ができる方法を、アメリカのETAK社が開発した。それがマップマッチング方式であった。この方式では、デッドレコニングで検出した自車の軌跡を、自動車は道路上を走るものとして、地図の道路と比較してその誤差を補正するものであるため、センサーによる誤差の累積を防ぎ、正しく位置の検出ができることになる。図1に説明図を示す。青色はデッドレコニングによる軌跡である。走行距離や方向にわずかのずれを有するため、徐々に緑色の真の道路位置から離れていく。車が交差点を曲がるときに、マップマッチング方式では道路地図データから交差点の位置を参照し、現在位置を交差点位置に修正する。赤色がマップマッチングにより修正された軌跡である。軌跡が道路上に補正されているため、ドライバーに違和感を与えないものである。開発チームはETAK社の技術を導入するかどうかを考えたが、日米の道路密度、道路形状図1 マップマッチングの原理(住友電気工業(株)提供)地図マッチングによる推定走行軌跡センサーのみによる推定走行軌跡実走行軌跡道路誤差③②①③②①
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