Vol.3 No.4 2010
37/74
シンセシオロジー 研究論文−292−Synthesiology Vol.3 No.4 pp.292-300(Nov. 2010)1 はじめに近年多くの自動車にカーナビゲーションシステム(以下、ナビと記す)が標準装備され、レンタカーやタクシーにも装着されるようになってきている。筆者は4年前にドイツに駐在したが、ナビを装着した乗用車を使ったお陰で、地理を知らないまま地図帳なしで、どこへでも運転することができた。当初ヨーロッパの研究者らが主張した進行方向を矢印で示すのみのターンバイターン方式ではなく、すべてのナビは日本式の地図ナビとなっていた。ナビの始まりは中国の十八史略にある殷の黄帝が発明したといわれる指南車であった。その後時代を経て、本田技研工業(株)が1981年にガスレートジャイロを用いたナビを作ったが、透明シート地図を用い、自車位置を光で投射するものであった[1]。その後地磁気を用いて走行方向を示すものはあったが、ディスプレー上の地図に自車位置を重ねて表示するものが1987年にトヨタクラウンに搭載され、これがナビの始まりであった。このナビは地磁気と車速センサーの出力を基に移動量を積算していくので、徐々に真の位置からずれていくものではあったが、これによりナビ搭載の気運は高まった。このときの地図は1/5万(1 cmが500 m)と粗いものを用いていた。そして、1989年に日産シーマにナビが搭載されたが、これは住友電気工業(株)(以降、住友電工という)によって開発されたものであり、地図中の道路の上に自車位置が精度良く表示されるという点において実用的なナビの最初と言うことができる。本稿では、住友電工におけるナビの研究開発のプロセスを振り返り、実用化のポイントと困難さについて述べる。池田 博榮1*、小林 祥延2、平野 和夫3日本が実用化の先鞭をつけた車のカーナビゲーションシステムは、今や全世界に広がりたいへん有用なものとなり、日本だけでも約5000億円/年を超える事業規模となっていると思われる。しかし、これを実現するためには、当時にはなかった全国のデジタル地図作成のための仕組みづくりと作成、交通情報を車に流す仕組みや米国によるGPS整備とその利用等環境整備が必要であり、これに多くの労力を割いた。またマップマッチング等位置検出技術、ジャイロセンサー、ディスプレー、メモリー、マイコン等ナビに必要なソフトウエア、ハードウエア開発が必要であった。今ではカーナビゲーションシステムは車載情報通信システムとして発展拡大している。まだ世の中に同システムに必要な要件が整備されていなかったところから始めた開発と事業化について、開発マネージメントの観点から述べる。いかにしてカーナビゲーションシステムは実用化されたか− 開発マネージメントと事業化について −Hirosaka Ikeda1*, Yoshinobu Kobayashi2 and Kazuo Hirano3How car navigation systems have been put into practical use- Development management and commercialization process -Japanese manufacturers have played key roles in developing practical vehicle navigation systems (hereinafter “NAVS”). The NAVS have spread throughout the world and have become extremely useful. The market size in Japan alone is considered to exceed 5 hundred billion yen a year. This system could not have been achieved without the development of a scheme to create a nationwide digital road map, subsequent map creation, methodology to provide traffic information to vehicles, GPS development and its utilization in the United States. Much effort has been directed toward laying down infrastructure comprising these factors. Furthermore, it has been also necessary to develop the required software and hardware for the NAVS including location detection techniques such as map-matching, gyro sensors, displays, memory and microprocessors. The NAVS are presently evolving as onboard information communication systems. This report describes their development and commercialization, which started even before the requisites for the NAVS developed fully, from a development management perspective.キーワード:カーナビゲーションシステム、地図データベース、マップマッチング、ジャイロセンサ、ルートガイダンス、VICS、GPSKeywords:Car navigation system, map database, map-matching, gyro sensor, route guidance, VICS, GPS1 九州大学イノベーション人材養成センター 〒812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1 創造パビリオン1F、2 (株)オートネットワーク技術研究所 〒510-8503 四日市市西末広町1-14、3 住友電気工業(株) 〒541-0041 大阪市中央区北浜4-5-33(住友ビル)1. Innovation Training Program Center for R&D and Business Leaders of Kyushu University Sozo Pavilion 1F, 6-10-1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka 812-8581, Japan *E-mail: , 2. AutoNetworks Technologies, Ltd. 1-14 Nishi-Suehirocho, Yokkaichi 510-8503, Japan, 3. Sumitomo Electric Industries,Ltd. 4-5-33 Kitahama, Chuo-ku, Osaka 541-0041, JapanOriginal manuscript received June 30, 2010, Revisions received August 26, 2010, Accepted August 30, 2010
元のページ