Vol.3 No.4 2010
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研究論文:日本全土の元素分布の調査とその活用(今井)−290−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)した動機はどのようなものだったのでしょうか。先行するイギリスの地球化学図の研究から刺激を受けて始めたのでしょうか。あるいは独自の学術的な興味から始めたのでしょうか。回答(今井 登)ご指摘のように北関東の地球化学図を最初にアイデアを出して立ち上げたことがたいへん重要なポイントであったと思います。当時の地球化学図プロジェクトの立ち上げの目的はいくつかあったと思います。1991年3月に北関東地域の地球化学図が完成いたしましたが、そのプロジェクトが5年計画で1985年4月1日が開始です。予算(公害特研)が通ったのがその前年ですから、準備は1984年頃から行っていたことになります。当時の私はまだ新人であり、立ち上げの経緯のすべてを知っているわけではありませんが、次のようなことであったと思います。立ち上げの動機の第一は、ご指摘のようにイギリス全土の地球化学図が発表され大きなインパクトを与えていたことです。イギリス全土が色付けされて元素の分布が一目で分かるというその分かり易さと強烈な印象は特筆されるところです。しかもその手法が鉱床探査を目的とした地球化学探査という、地質調査所の地球化学グループがこれまで行っていた手法そのものであったことで、私達にもすぐにでもできるように思われました。当時の地球化学図作成に係わったグループは高いポテンシャルを持って地球化学の基礎研究や化学分析を行っていましたが、地質調査所の「地質図作り」といった主要プロジェクトとはある意味遠いところで仕事をしておりました。地球化学図は、そのような地球化学関連の複数のグループがまとまって新たな国土の基本図作りを一緒に行うことのできる一つの大型プロジェクトとして考え出されたもので、地球化学関連グループが初めて行うプロジェクトとして大きな期待を集めました。もちろん広域的な元素の分布と移動過程を知るという独自の学術的な興味もありましたが、当時の大型分析設備である放射化分析装置やICP発光分析装置等の導入による地球化学研究の促進も大きな目的でした。曲折もありましたが、だれもが認めるようになったのは全国図が完成して高い評価を得てからだと思います。議論4 野外調査と室内実験の方法論の類似性コメント(小野 晃) データの量が増大するという点からみますと、十分密なメッシュで試料を採取することと、広域をカバーすることとは競合する要素で、どちらを優先するか、あるいはそれらをどう調和させるかは難しい問題だったと思います。この研究では粗い調査点でも広域であれば科学的に意味のあるデータが取得できるという仮説を最初に設定したことが重要な点であったように思います(それは後から見事に検証されることになりましたが)。野外調査ではありませんが、実験室内での研究、たとえば物性研究では試料の温度を変えて物性を測定する場合に、まず粗い温度間隔で必要とする温度の全範囲をカバーして全体の傾向をいち早く把握し、その後さらに興味ある範囲を選んでより細かい温度間隔で測定していくという手法をとります。分野は違っても、まず全体像を把握し、それから詳細な部分に進んでいくという手法が共に有効であることは共通の手法であるように思います。野外調査は室内実験のように測定を容易に繰り返せるものではないので、そのような手法がより重要と思いました。回答(今井 登)ご指摘のように全体像を把握し、それから詳細な部分に進んでいくという手法がたいへん重要であると思います。その点になぜもっと早く気がつかなかったかについては、当時は外国を含めた類似研究がほとんど1 kmメッシュかその程度であったことからメッシュを大きく広げて全国をカバーするという発想はありませんでした。山あり谷ありの野外の多様性のある地形と地質を前にすると、10 km四方に1点というのはとてつもなく少なく、本当に意味のあるデータが得られるのか疑問のように思えました。結果としてうまくいって良かったと思います。全国をカバーするためには、各県の自治体や大学に呼びかけてそれぞれの地域で地球化学図を作ってもらってつなぎ合わせるというのが当時の考えでした。しかし、なかなかうまくいかず、最初のプロジェクトの提案者が異動した大学と、関心を持ったいくつかの大学がそれぞれの地域で現在も地球化学図の作成を行っています。議論5 採取試料の代表性質問(小野 晃) この研究では川の支流の付け根部分の堆積物が、その支流の流域の地殻表層を代表しているという前提をとっているように思います。たいへんうまい方法と思いましたが、そのような河川堆積物がその流域を十分に代表していることはどのようにして確認されているのでしょうか。また、これだけでなく何かほかの条件が必要か等、元素の分析結果の領域代表性に関してお考えがあれば教えてください。また論文中で現在進行中の研究として土壌の元素分布にも言及していますが、地殻表層と土壌とはどのように定義が違うのでしょうか。川の支流の付け根部分の堆積物には土壌も混入しているのではないかと素人的には想像しますが、土壌の混入は無視しうるほどで、地殻表層を表していると言えるのでしょうか。なお本論文の主題ではありませんが、土壌の元素分布を調査するときに、どのような場所から土壌の試料を採取すれば、ある領域の土壌の元素を代表していると言えるのでしょうか。回答(今井 登)付け根にある河川堆積物がその流域を代表していることはモデル的にいくつかの地域で確認いたしました。以下に仙台市周辺の亜鉛とリンの濃度を例にとって示します。図aで39番の試料は図の上部の広瀬川の流域の付け根にあり、広瀬川全体の代表点と考えられます。図bの散布図で見ると、流域にある各点の平均値と39番の濃度は亜鉛とリンのいずれに対してもおよそ平均値にあることが分かります。したがって、この場合には広瀬川流域全体は39番の試料でよく代表されていることが分かります。代表性を高めるために注意していることは、現場の試料採取で、より平均化されていると考えられるなるべく細粒の試料を採取すること、工場排水等人為的な影響の可能性のある地点を避けること、重鉱物(砂鉄等)の濃集等に注意して、そのような試料を避けるように注意すること等です。仙台河川堆積物の広域代表性川の合流点手前の39番の試料はその上流域の岩石・堆積物を削剥・混合して平均化し、上流域全体を代表していると考えられる。39番の流域39番の試料で上流域を代表させることができる8 ㎞642039番の流域の試料の亜鉛とリンの濃度平均値と近い値になるppm)15020025039平均値Zn (ppm)01000図a 仙台市周辺の亜鉛とリンの濃度モデル例

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