Vol.3 No.4 2010
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研究論文:日本全土の元素分布の調査とその活用(今井)−288−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)参考文献S.Enomoto, E.Ohtani, K.Inoue and A.Suzuki: Neutrino geophysics with KamLAND and future prospects, Earth and Planetary Science Letters, 258, 147-159 (2007).今井 登, 寺島 滋, 太田充恒, 御子柴(氏家)真澄, 岡井貴司, 立花好子, 富樫茂子, 松久幸敬, 金井 豊, 上岡 晃, 谷口政碩: 日本の地球化学図, 210, 地質調査総合センター (2004).今井 登, 寺島 滋, 太田充恒, 御子柴(氏家)真澄, 岡井貴司, 立花好子, 池原 研、片山 肇、野田 篤、富樫茂子, 松久幸敬, 金井 豊, 上岡 晃: 海と陸の地球化学図, 207, 地質調査総合センター (2010).J.S.Webb, I.Thornton, M.Thompson, R.J.Howarth and P.L.Lowenstein: The Wolfson geochemical atlas of England and Wales, Imperial Colledge of Science and Technology, 69 (1978). R. Salminen, W. De Vos and T. Tarvainen: Geochemical Atlas of Europe, Part 1 and 2, EuroGeoSurveys (http://www.gtk.fi/publ/foregsatlas/) (2005,2006).K.Yamamoto, T.Tanaka, M.Minami, K.Mimura, Y.Asahara, H.Yoshida, S.Yogo, M.Takeuchi and M. Inayoshi: Geochemical mapping in Aichi prefecture, Japan: Its significance as a useful dataset for geological mapping, Applied Geochemistry, 22, 306-319 (2007).青木かおり, 新藤智子, 楠野葉瑠香, 福岡孝昭: 河床堆積物の化学分析に基づく地球化学図作成の今後の展望−地球化学図作成のための準備と分析方法を中心に−, 地球環境研究, 11, 227-238 (2009).菅 和哉, 黒沢邦彦: 北海道中央部における土壌元素の地球化学図, 北海道立地下資源調査所調査研究報告, 26, 39 (1996). T.Seki, K.Yamaguchi, Y.Noumi, M.Asada, T.Matsuda and J.Takada: Geochemical characteristics of sediments from the Takahasi river at Okayama prefecture. KURRI Progress Report, 1999, 111 (2000) (岡山県の地球化学図 http://www.big.ous.ac.jp/~seki/kagakuzu/a.htm).伊藤司郎, 柴田 賢, 田中 剛, 宇都浩三, 安藤 厚, 寺島 滋, [1][2][3][4][5][6][7][8][9][10]照できる。また、河川堆積物はすべての試料で採取地と試料の写真を、海底堆積物試料は一部の試料で採取時の試料の写真を見ることができる。特に、河川堆積物はクリックすると大きく拡大して見ることができ、その地域に分布する大まかな岩石の種類や堆積物を推定することができる。また、このほかホームページ上から全試料の元素濃度、緯度経度、全国・地方地球化学図データ(画像/GISシェープファイル)および関連情報をダウンロードすることができる。8 地球化学図の活用(国土の基本情報の多様な活用)地球化学図は日本の海と陸の地殻表層の元素分布を表し、そのデータは国土の地球化学基本情報として重要である。また、河川堆積物は全国津々浦々からまんべんなく採取され、個々の河川堆積物はそれぞれの地域の流域を代表しているため、すべての試料の平均値は日本全体の平均化学組成とも考えられる。日本に分布する代表的な岩石166試料の分布割合とその組成から計算して求めた日本の平均化学組成(日本列島のクラーク数)[21]が求められているが、これを理論値とすると、地球化学図における3,024個の河川堆積物の平均値は実際に測定した実測値とも言える。実際に両者はよく一致することが分かっている。また、放射能レベルの評価にも利用することができる。自然放射線量は、空からの宇宙線と周囲の岩石や堆積物からの自然放射線の合計で決まるが、後者は岩石や堆積物中のカリウム、ウラン、トリウムの濃度が大きく関与する。すなわち、これらの元素の濃度を地球化学図から求めて自然放射線量の概略値を算出することができ、例えばカリウム、ウラン、トリウムを多く含有する花崗岩が広く分布する西日本は自然放射線量が大きいことがわかっている。また、各地の原子力施設からの放射能の汚染レベルについても、これらのバックグラウンドと比較することにより評価できると考えられる。一方、社会的な利用としては、地球化学図は最近問題になっている土壌汚染について各地における基盤的なデータとして利用されている。自治体の関連施設や会社・工場の所有地における元素濃度を簡単に知ることができ、詳細な汚染調査の事前調査として有効である。2.1節で述べたように、土壌汚染を考えるときに環境基準と共に自然のバックグラウンドレベルとの比較が重要である。もともと周辺にある鉱床や温泉等で自然のバックグラウンドレベルが高い地域があり、工場等による人為的な汚染と区別する必要がある。地球化学図は基本的には自然のバックグラウンドを表すので、これと比較することにより周辺の環境汚染を評価することができる。このようなデータは国・自治体における汚染の拡散防止や浄化対策立案の基盤資料として利用することができ、産業立地や工場周辺のリスク評価に利用することにより、立地評価費の軽減や土壌汚染対策経費節減に役立つと考えられる。以上のように地球化学図のデータは、基本的にすべて一般に公開されているため、利用する側の工夫によってさまざまな利用法があると考えられ、こちらでは考えつかないような利用法が時に提案される。例えば科学警察研究所の捜査における土壌試料の全国のデータベースとして、産地推定に使用する可能性について現在共同研究を行っているところである。いろいろな応用の可能性ついても、今後大いに地球化学図のデータが利用されることを望みたい。現在私達は全国から約3,000個の土壌試料を採取して土壌地球化学図を作成している。この中で地殻における元素の分布と移動・拡散過程の解明に関する研究成果を応用して、有害元素についての全国規模での陸域~河川域~海域を一体化した環境汚染評価システムを開発する予定である。今後、さまざまなデータを統合化して有害元素による汚染に関する考察を行っていきたいと考えている。
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