Vol.3 No.4 2010
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研究論文:日本全土の元素分布の調査とその活用(今井)−285−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)地球化学図は視覚的な分かり易さからさいわいにも社会から大きな反響があり、さまざまな方面で利用されると共に2005年に「環境賞」を受賞することができた[15]。4.1.3 沿岸海域の地球化学図(次の段階への進展)その後の展開として、どのように研究を進展させるかについていくつかのアイデアがあったが、一つは陸の延長として、元素分布が海にどのように伸びているかという課題があった。海の地球化学図に関しては以前に北陸~秋田沖の海域で作成した経験があり、また地質調査所の長年の沿岸海域調査の研究ですでにかなりの海域で海底堆積物試料が採取済みであり、試料が保管されていたことが契機となった。地質に関する総合研究機関として、これらの過去の研究蓄積を最大限に利用することで全国の沿岸海域で比較的容易に地球化学図が作成可能であると思われた。日本全国についてその時点で入手できていなかったいくつかの海域(面積で全体の約3割)で新たに試料採取を行うことで、全国の沿岸海域の海底堆積物をそろえることができた。新旧あわせた試料総数は4,905個にのぼり、これを用いることにより2010年に「海と陸の地球化学図」を完成することができた[3]。海と陸の両方を統合した全国地球化学図の作成は例がなく世界初であった。これにより、陸と海の元素分布がつながり、陸から海へ元素が移動していく過程を理解することが可能となった。その後現在は、さらなる研究の展開として外部予算を獲得し、全国から約3,000個の土壌試料を採取して全国の土壌地球化学図を作成中である。5 地球化学図を作成するための要素技術(目的達成のための要素技術の開発)地球化学図を作成するための要素技術としては試料採取、化学分析、作図がある。目的を達成するために、実際に開発した手法の留意点について、従来法とどのような違いに着目して地球化学図を作成していったかについて以下に述べる。実際の詳細な手順は過去の文献を参照されたい[2][3]。重要なのは膨大な数の試料に対する取り扱いの自動化と、すべての試料を単一の手法で処理する標準化であると考えた。これまではさまざまな地域で異なった手法により地球化学図が作成されたため、それらをすぐに比較することは困難であったが、標準化した手法を採用することにより全国のデータを均質かつ統一的に解析できるようになった。5.1 試料採取5.1.1 北関東の地球化学図における試料採取[11]広域の地球化学図を作成する上で最も重要なのは、膨大な数の試料をどのようにして採取するかである。この研究で使用した河川堆積物を採取するにあたって初期の頃に用いた方法は、試料採取後の処理の時間をいかに少なくするかであった。このため、できるだけ現地で必要な作業を終わらせてしまうように努力した。前述したように具体的には、研究者一人と補助者(学生)2~3人が1チームとなり、1/2.5万か1/5万地形図を見ながら車で試料採取点に移動する。1 kmメッシュで試料採取を行うためにはかなり小さな川や沢まで移動する必要があり、車で入れない場合は歩くしかない。試料採取点は支流の付け根(その流域の一番下流の部分)で行うのが原則で、あらかじめ研究室で採取地点を定めておき、そこにいかに早く到着するかが重要である。現地に着いた後は、川砂の中から80メッシュ(約0.17 mm)より細かい河川堆積物の成分をふるい分ける必要がある。できるだけ細粒の川砂を80メッシュのふるいに入れて、川の水をかけながらふるいを通った砂や泥をろ紙で濾し分けて80メッシュ以下の成分を分離する。しかし、試料によってはろ紙が目詰まりを起こしてろ過にとても長い時間がかかったり、細粒の砂がなかなかなくて探すのに手間取ったりした。必要量がとれないと何度もろ過してますます時間がかかる。結局、1日に採取できるのは数個程度であることが多かった。試料は宿に戻って広げて乾かすと一晩でかなり乾燥した。こうして2週間の出張で一人60~100個程度、全体で600~800個の試料を採取することができた。5.1.2 全国の地球化学図の試料採取[2]全国の地球化学図を作成するに当たって考えたことは、北関東で問題になった膨大な作業に対する人的負担をいかに減らすかであった。すべてを外注してしまえば手間は減るが費用も莫大になり、研究プロジェクトとして現実的ではない。費用を抑えるにはできるだけ自前のマンパワーで行うしかないが、それには最も手間のかかる試料採取を、採取現場では試料処理作業は一切行わず、採取作業のみにとどめたことが重要であった。そうすれば仮に外注したときも費用も安く済むからである。したがって、北関東の時のような現地でのふるい分けと乾燥は行わず、できるだけ細粒の砂を探して約2 kgと比較的多量の試料をスコップや採泥器で採取してくるだけにとどめた。また、試料採取地点はできるだけ大きな河川と大きな道路を選び、川と道路が交差する到達しやすい地点に設定した。しかし、試料採取密度が粗いので試料採取点の間の移動距離が長く時間がかかり、特に山間部では谷が深く地図上では容易に試料採取できるように見えても、実際の川は断崖絶壁のはるか下方で、川に下りる道を探すのに長時間を費やしたり(この場合でも釣り人等のために川に下りる小さな道が意外とあったりす

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