Vol.3 No.4 2010
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研究論文:日本全土の元素分布の調査とその活用(今井)−284−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)より行った。分析した元素はコバルト、クロム、銅、ニッケル、リン、鉛、ウラン、亜鉛等の26元素であった。この研究は広域的な地球化学図を日本で初めて本格的に作成した点で重要な意義があったが、試料採取から分析まで膨大な作業を伴い、役割分担や仕事内容を適切に検討することが重要であった。地球化学図については常にこのような点が問題となる傾向があるので注意が必要である。4.1.2 全国の地球化学図へ(発想の転換による展開)この後、研究の範囲を拡張して全国の地球化学図を作成しようとしたが、当時はそのままの形で全国に展開することを想定していたため、日本列島の広さが約38万km2に対して試料数は1 kmメッシュとして38万個にもなり、実現には膨大な手間と費用がかかることが予想され、プロジェクトを提案してもまじめに耳を傾けてくれる人はいなかった。この間、独自にごく狭い地域であるが仙台市[12]および山形市周辺地域[13]で地球化学図を作成する仕事を継続していた。また、海域としては能登半島から秋田沖にかけての沿岸海域地球化学図[14]も作成した。大きな転機は雑談の中からであった。ある時、地球化学図の全国展開は本当に無理なのかという話題になり、費用と人員から夢物語であるとあきらめていた自分に対して、発想を逆転させてみたらどうか、実現するためには現実的な観点から費用と人員にどのような条件が必要であるか考えてみたらどうかと提案があった。当時は1 kmメッシュという試料採取密度にとらわれていたため、それよりメッシュが粗くなると意味がないと考えていたが、この点にこだわらなければ費用、人員、実施期間に目処が見えてくることがわかった。一般的なプロジェクトの期間として5年を設定し、10 kmメッシュにすることで試料数を約3,000個に抑えることができる。これなら十分に実現可能である。すなわち第一段階として試料採取密度は粗くてもまず全国をカバーし、必要があればその後で特定の地域を別途試料採取密度を上げて地球化学図を作成すれば両方の要求を満たすことができるのではないかと考えた。こうして外部に予算要求しプロジェクトを開始したのが1999年であり、日本で初めて全国の地球化学図が完成したのは2004年のことであった[2]。これにより10 kmという粗いメッシュであっても日本列島のいくつかの特徴的な元素分布を初めて明らかにすることができ、当初の試料採取密度が粗すぎては何も分からないのではないかという懸念は払拭された。全国地殻表層基本特性網羅性信頼性運用性海と陸を統合した日本全土の地球化学図の作成と公開元素存在度元素の種類試料の処理試料の分析採取試料の代表性公開の媒体試料の種類と採取密度調査・分析体制作図とデータの標準化方法の標準化構成要素統合と構成掲げた目標陸域、海域元素分布ユーザー利便性地域の地球化学図方法論の構築重点地域の地球化学図特別な課題を設定した方法論の構築目的から発想した方法論全国地球化学図の完成北関東(1991)仙台(1997)日本海(1997)陸(2004)海(2009)海陸(2010)沿岸地球化学図への展開産総研地質分野に蓄積された海域調査資料の活用全国陸海域地球化学図の完成世界初産総研の総合力の発揮全国カバーへの発想の転換環境賞受賞(2005)図3 日本全土の地球化学図の作成と公開のためのシナリオ各構成要素と地球化学図を支えるキーとなる基本要素および最終目標。図4 地球化学図作成における研究の展開産総研がこれまでに作成してきた北関東の地球化学図(1991)から日本の地球化学図(2004)、海と陸の地球化学図(2010)まで。

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