Vol.3 No.4 2010
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研究論文:日本全土の元素分布の調査とその活用(今井)−283−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)な地球化学図を作成したのがイギリスのImperial CollegeのWebbらのグループであった[4]。かれらはイギリス全土(約151,000 km2)から約50,000個の試料を採取して全国をカバーする地球化学図を作成し地球化学アトラスと名付けた。現在では、ヨーロッパ全土に拡張されて地球化学図が作成されている[5]。国内外の地球化学図については文献を参照されたい[6]-[9]。4.1産総研の研究シナリオ図3に日本全土の地球化学図の作成と公開のためのシナリオを示した。地球化学図を作成するうえでの構成要素としては、図に示したように元素分布、元素存在度、地殻表層、元素の種類、試料の種類と採取密度、陸域・海域、採取試料の代表性、試料の処理、試料の分析、公開の媒体、作図とデータの標準化、調査・分析体制、方法の標準化が考えられる。これらは地球化学図作成のための基本的な構成要素であるが、さらに地球化学図を支えるキーとなる五つの基本要素である基本特性、網羅性、信頼性、ユーザー利便性、運用性として統合することができる。これらの一つ一つが土台となって最終目標である「海と陸を統合した日本全土の地球化学図の作成と公開」が達成されると考えられる。産総研でのこれまでの地球化学図の作成の経緯を図4に示す。鉱床を目的とした地球化学探査は産総研でも以前から行っていたが、広域の地球化学図を系統的に作成したのは北関東地域が初めてであった。計画した目的は全国をカバーするための第一段階としての手法と方法論の構築であった。その後、重点地域として仙台・山形と日本海沿岸(北陸から秋田沖)の地球化学図を作成し、いくつかの経緯を経て全国展開を行い陸域の全国地球化学図を完成した。次に陸域部分の延長としての海域の全国地球化学図を作成し、海陸の全国地球化学図が完成した。現在はさらなる展開として土壌の全国地球化学図を作成中である。4.1.1 北関東の地球化学図の作成(最初の方法論の構築と展開への模索)上記のように旧工業技術院地質調査所では1991年に水戸市からいわき市にいたる北関東地域で地球化学図を作成した[10][11]。プロジェクトの最初の立ち上げの動機は、イギリス全土の地球化学図が発表され大きなインパクトを与えていたことである。イギリス全土が色づけされて元素の分布が一目で分かるというその分かり易さと強烈な印象は特筆されるもので、しかもその手法は鉱床探査を目的とした地球化学探査という、地質調査所の地球化学グループがこれまで行っていた手法そのものであった。北関東地域の地球化学図の作成は、当時の地球化学関連の複数のグループが協力して新たな国土の基本図に取り組むという点では初めての大型プロジェクトとして提案され、大きな期待を集めて開始された。北関東の地球化学図では約4,000 km2から河川堆積物の試料を約3,850個採取したが(試料の採取密度は約1 km×1 kmに1個)、プロジェクトを始めるに当たって、この膨大な数の試料採取をいかに行うかが問題となった。結局、7-8人の研究者と20人以上の補助者(学生)がチームを作り、5年間にわたり夏休みの最初の2週間で試料採取を行うこととなった。このときはできるだけ試料処理を現地で完了することとし、川の水を用いて細粒の砂を現地でふるいをとおしてろ過し分離した。化学分析に当たっては、当時ようやく普及しはじめたICP発光分析法と、多元素を同時に分析できる中性子放射化分析法を自動化することに地球化学図作成ICP、原子吸光法による測定ふるい分け、粉砕酸分解、分別溶解川砂、海底堆積物、土壌地理情報システムによる作図元素濃度測定化学分析試料処理試料採取河川堆積物海底堆積物河川堆積物の採取海底堆積物の採取試料処理試料処理分析・作図分析・作図陸の地球化学図海の地球化学図ふるい分けふるい分け乾燥乾燥磁性鉱物の分離磁性鉱物の分離化学分析化学分析作図作図化学分析化学分析作図作図粉砕粉砕乾燥乾燥図2 地球化学図作成のスキーム試料採取から地理情報システム(GIS)による地球化学図の作図までと、地球化学図で用いた河川堆積物、海底堆積物と試料処理、化学分析、地球化学図。

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