Vol.3 No.4 2010
27/74

研究論文:日本全土の元素分布の調査とその活用(今井)−282−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)うな元素が分布して、その地域や全体の平均値はどのくらいの濃度か等は地球科学の研究を行う上で基礎となる。例えば、日本列島がどのような元素からできているかという最も基本的なデータとしての平均化学組成や、地表のウラン、トリウム等の濃度分布から求められる自然放射線量等の推定がある。学術上の応用として、岐阜県神岡にあるニュートリノ測定のための液体シンチレーション測定装置(KamLAND)に対する自然バックグラウンド推定のために地球化学図が使用されている例がある。ここでは地球化学図で示された地表のウランとトリウムの濃度分布から自然バックグラウンドを推定している[1]。二つ目は環境問題で、産業廃棄物や工場廃液等による土壌汚染や海洋汚染を明らかにするための手がかりを与えることである。これらの汚染を評価するためには、有害元素の分布と汚染評価の基準となる自然バックグラウンド値を求めることが重要であるが、これまでは特定地域で限られた元素の調査が実施されたのみで、日本全域を対象にした詳細かつ総合的な調査はなされていなかった。この研究では、日本全土の海と陸における微量有害元素(ヒ素、ベリリウム、カドミウム、水銀、モリブデン、アンチモン等)をはじめとする53元素の分布とバックグラウンド値を明らかにし、元素分布の起源や環境中における元素の動きを解明するために地球化学図を作成した[2][3]。これにより全国的な元素の分布が明らかになり、その起源と循環メカニズムを解明する研究や、環境中における人為汚染の評価、汚染の拡散防止や浄化対策立案に必要な基礎データを提供することができる。3 地球化学図作成の流れ図2に著者らが採った地球化学図作成のスキームを示した。地球化学図を作成するために試料採取、試料処理、化学分析・元素濃度測定、地理情報システムを用いた作図の4段階を踏んだ。まず、研究室で地形図や地質図、土壌図等をもとに試料採取点を定めた。その地点をもとに実際に現地で試料採取を行った。試料は全国各地から採取した河川堆積物、海底堆積物、土壌等の試料である。試料は実験室に持ち帰って乾燥し、ふるい分け、磁性鉱物の分離、粉砕等の試料処理を行った。次に試料を酸で溶かし、元素濃度をICP分析や原子吸光分析等で測定した。このようにして求めた全国各地点での元素濃度から地理情報システムを用いて地球化学図を作図した。図には同時に地球化学図で用いる河川堆積物、海底堆積物について試料採取、採取した試料、試料処理、地球化学図を示した。河川堆積物については、試料採取は河川に行ってスコップ等で採取するだけと比較的簡単であったが、試料処理では乾燥後のふるい分けや磁性鉱物を分離する作業が必要であった。一方、海底堆積物の採取には船が必要で、船上から採泥器を降ろして海底から試料を挟み込むようにして試料採取を行った。採取した試料は乾燥と粉砕を行った。分析と作図はすべての試料で基本的に同じように行った。4 地球化学図作成における研究の展開このような地球化学図を作成することは、地表での重金属の局所的な異常濃集帯を発見してその周辺に存在する鉱床を探査する目的で古くから行われていた。しかし、先進国では未発見の鉱床がほとんどなくなり、現在は別の観点、すなわち環境問題から地球化学図が見直されている。地球化学図を用いれば、有害元素がどのように分布しているかが分かるからである。このような観点で初めて全国的元素の分布から何が分かるか?国土の地球化学基本情報 ・日本列島の化学組成 日本列島のクラーク数 ・自然放射線量の推定 ニュートリノ測定の際の 自然バックグラウンド推定環境汚染の評価 ・環境汚染の評価 土壌汚染・海洋汚染 ・放射線被曝量の評価 自然被爆量の推定目的と活用例自然のバックグラウンド、産業活動、都市環境等からの汚染が合わさったもの地球化学図ー元素の濃度分布図元素の分布はいかにして決まるか?自然のバックグラウンド都市環境産業活動図1 地球化学図における元素分布の要因と活用例自然のバックグラウンド、産業活動、都市環境からの汚染の合計が元素分布となる。活用例としては国土の基本情報としての利用と環境汚染の評価がある。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です