Vol.3 No.4 2010
18/74
研究論文:単結晶ダイヤモンド・ウェハの開発(茶谷原ほか)−273−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)2 気相法によるダイヤモンド合成の発展化学気相合成(Chemical Vapor Deposition:CVD)法は、大気圧以下の圧力で原料ガス(ダイヤモンド合成の場合、メタンなどの炭化水素ガスと水素)を熱またはプラズマによって分解し、生じた成長種が基材表面で化学反応してダイヤモンドの薄膜を成長させる方法である[2]-[13]。1950年代に報告されている熱分解に基づくダイヤモンドのCVD合成は、極端に成長速度が遅く、グラファイト成分の混入の問題があり非実用的な方法だった。1960年代の終わりには、原子状水素の存在によってグラファイト成分が選択的にエッチングされることが分かっていたが、CVDダイヤモンド研究が急激に立ち上がったのは1982年から1983年に無機材質研究所(現:物質・材料研究機構)が原子状水素の生成方法とそれを利用した毎時μmオーダーの成長速度でダイヤモンド合成が可能であることを報告してからである[14][15]。これらの方法は、熱フィラメントCVD法およびマイクロ波プラズマCVD法と呼ばれる。2200 ℃程度に加熱したタングステンフィラメントまたはマイクロ波プラズマによって、水素で希釈したメタンガスを分解し、減圧下で800 ℃程度の基板上にダイヤモンド粒子を成長させる方法である。その後、さまざまなCVD法が開発されたが、現在でもこの二つの方法はCVDダイヤモンド製造や研究開発に広く利用されていることから見ても、画期的な方法であったことがわかる。一般に、CVD法では減圧下にて炭化水素などの原料ガスを分解し、非ダイヤモンド基板上に核発生させ、多結晶ダイヤモンド薄膜を堆積させることができる。このような多結晶薄膜はコーティング工具をはじめ多くの用途では優れた特性を発揮する。原子状水素の生成と原料ガスの分解は種々の方法によって行うことができ、この分解(活性化)の方法によって熱CVDとプラズマCVDに大別される。熱CVDプロセスでは原料ガスの分解は熱活性によって達成されるのに対して、プラズマCVDでは電子−分子間反応によって起こる。熱CVDには、熱フィラメント法や酸素−アセチレントーチのような燃焼炎法が含まれる。プラズマCVD法には、マイクロ波プラズマ、DCプラズマ、DCプラズマジェット、RFプラズマなどがある。熱フィラメントCVD法は、比較的低コストで大型装置を製作できることから大面積に成膜が可能となり、工具の多結晶ダイヤモンドコーティング法としてすでに実用化されている。しかし、高温に加熱されたフィラメント材料(タングステン、タンタル、レニウムなど)が不純物として膜中に混入することと、成長速度が遅いことなどが問題として挙げられる。マイクロ波プラズマCVD法は、無電極放電を利用するため不純物の混入が少なく、半導体グレードの成膜が可能である。これまで成長速度が遅かったが、後述のように高速化が進み[16]、最近ではCVDによるバルク単結晶合成のほとんどの報告でマイクロ波プラズマCVDが用いられている。CVDダイヤモンド合成法に共通する特徴は、高濃度の水素ガスである。最近までグラファイト成分が少ないダイヤモンドを得るためには、99 %以上の水素濃度が必要とされた。高濃度の水素は、多量の原子状水素を生み、これがダイヤモンドCVDプロセスにおいて重要な役割をすると一般に信じられている。ダイヤモンドの合成は気相からラジカルが成長表面へ付着し、また、離脱すること、つまり表面反応プロセスによって起こると述べられている。ダイヤモンド結晶が成長する場合、最初にダイヤモンドの核発生が起こるが、その後、ダイヤモンド成長表面がグラファイト相へ変態するのを阻止する必要がある。このためには高濃度の水素原子が、ダイヤモンド成長表面上に存在するすべてのダングリングボンド(非結合手)と結合する必要がある。水素中でダイヤモンド構造が比較的安定であることは、加熱実験で確かめられている。超高真空中では約900 ℃でダイヤモンド表面はグラファイト化するが、水素中の加熱では2200 ℃までダイヤモンド構造が保たれる[17]。ちなみに酸素中では約585 ℃で酸化による質量減が始まり[18]、ダイヤモンドの酸化は表面のグラファイト化を伴って進行する。ダイヤモンドの成長は次のように説明される。成長表面を覆っている結合水素が、気相の水素原子と反応し水素分子が形成される過程で、成長表面から水素が引き抜かれた跡に孔(ダングリングボンド)ができる。次に、原料ガスが分解して生成したメチルラジカルCH3(この反応にも水素原子が関与する)が、この孔に結合することによって成長すると考えられている。さらに、原子状水素はダイヤモンドと同時に堆積しようとするグラファイト相を選択的にエッチングする。これはCVD多結晶ダイヤモンド合成における結晶粒界中のグラファイト成分の低減には有効である。この目的のためさらに原料ガスに酸素を添加することが一般に行われている。酸素によるエッチングでは水素ほどグラファイトとダイヤモンドの選択比が高くないが、低温でも有効にエッチングを行えるので、酸素添加はダイヤモンド成長条件の低温化に有効である。また、原料ガスにおける炭素-水素-酸素の組成比についてダイヤモンドの成長可能な組成比領域を示したバッハマン図[19]はよく知られている。ダイヤモンド結晶成長技術では、バイアス促進核生成(Bias Enhanced Nucleation:BEN)[20]と呼ばれるダイヤモンド核の形成技術が重要である。BENによる核形成は異種基板上でのヘテロエピタキシャル成長や多結晶ダイヤモンド、ナノダイヤモンド薄膜を成長させる場合の核形成方法として用いられている。BENによる核形成を利用しない
元のページ