Vol.3 No.4 2010
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研究論文:SiC半導体のパワーデバイス開発と実用化への戦略(荒井)−269−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)経済産業省からのより基盤的研究開発を促進する産総研委託費、研究所の大型設備導入補助、ナノテクノロジー研究棟の新規建設等、タイミングのよい研究所の理解と支援により、2インチデバイス試作ラインを構築することができた。それによって産業界との研究開発の場としての2インチラインの充実が図られ、ノウハウの共有、知的財産の移転により企業との連携が図られた。加えるに、このラインにより先に述べた超低損失SIT、PINダイオードが歩留まりよく作製できるようになり、企業との共同研究により、それぞれ直流配電系の遮断機(NTTファシリティーズ等)や大容量変換器の開発(東芝三菱電機産業システム(株):TMEIC等)が進められている。4.2.6 人材の育成、国際交流・連携人材の育成という点では、産総研の研究センターの7年におよぶ経験により、確実にそれぞれ技術の下流を意識したり、踏み込んだりできる研究者が育ってきた。産業界への人材の供給も行ってきた。学会への貢献としては、(社)応用物理学会の研究会の活動、2回のSiC主要国際会議(ICSCRM)への貢献が上げられる注6。国際的連携としては、パワーエレクトロニクスニューウエーブワークショップ(PENW)注7の活動がある。国際学会等での交流において、パワーエレクトロニクスは重要ではあるが、社会の下支え的存在で社会的認知度が低いとの共通認識が議論された。同じ思いを有する米国(CPES)、EUのパワーエレクトロニクスセンター(ECPE)と産総研の3者で情報交換をするとともに、パワーエレクトロニクスの共通ロードマップを作成するためにPENWを開催した。この活動により国際的連携の足場を作ったといえる。米国が2009年にオバマ政権になってからは、環境・エネルギーを重要な課題として取り上げており、この分野の研究開発の強化が進められている。CPESの後継として、全米科学財団(NSF)の支援のもと再生可能エネルギーを大幅に取り込んだ次世代マイクログリッドの構築を目標とするセンターが設立された[5]。グリッドの標準化等における世界的な競合・連携がこれからさらに重要な課題になる。我が国として国際的視野に立った遅れのない取り組みが必要であると考える。4.3 産総研の産業変革イニシャティブ活動SiCのショットキーバリアダイオードについては市販が開始されている。スイッチングに際してのリカバリー電流が小さい利点から、Si-IGBTデバイスと組み合わせた還流ダイオードとしてSiCショットキーバリアダイオードを導入するだけで、30~40 %の損失低減が図れることから、ダイオードへの応用は確実なものといえる。SiCデバイスの市場規模の広がりが見えてきて、三竦すくみの膠着状態から各分野において正のフィードバック状態へと展開していくことが期待できる時代に入った。産総研における産業変革研究イニシャティブの研究課題は、デバイスチップの供給がないために遅れがちな変換器応用の関連知財を国内で確保するうえでも時宜を得た決断と考える。アプリケーションによってデバイスに対する主要な要求仕様が異なる(図14)。また、変換器メリットからシステムメリットを考察するだけでなく、システム変更や新しいシステムをも構想することが重要であると考えられるが、それには多くの応用開発分野との交流・意見交換にとどまらず、現物のSiCデバイスを使った効果を企業関係者が実感したり、あるいは不足な点を指摘するような具体的な共同作業の場が肝要である。言うならば、基本ソフトウエアのソースコードを開示してその後の展開をユーザーから広く求めたリナックス方式的な開発が必要な時であり、この活動はまさに新規半導体デバイスの実用化を目指した本格研究における大きなステップといえる。今後のさらなる省エネルギーシステム開発を進める上での重要なインフラの構築事業と位置付けられる。こうした大型研究開発課題を迅速に実行するうえで、予算、施設、共同研究契約等について統合した指揮を可能とする職責(産総研の名称:産業技術アーキテクト)の果たした役割は大きい。デバイスはシステムからの要求仕様を受けて進化する。デバイスとシステム応用を継ぐ人材が極めて重要な役割を果たすフェーズになりつつある。産総研としての総合的取り組みに期待したい。5 今後の課題2009年9月に発足した日本の新政権は、「2020年までに1990年比25 %の温暖化ガス削減」を世界に呼びかけている。つくば地区においては、欧州のIMECや米国のAlbanyにおける産学連携共同研究体を参考に、ナノテクイノベーション拠点形成の計画が進められており、パワーエレアプリケーションと要求デバイス性能分散電源、家電機器大電流電車、高圧配電系高速動作汎用INV、SW電源高耐圧高温動作電力系統、新幹線地上設備高破壊耐量EV/HEVSiC物性限界Si物性限界低損失図14 アプリケーションと要求デバイス性能の概念図デバイス性能のあるものはトレードオフ関係にある(例えば低損失−高破壊耐量−高速動作)。アプリケーションによるデバイス性能の最適化(チューニング)が重要である。
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