Vol.3 No.4 2010
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研究論文:SiC半導体のパワーデバイス開発と実用化への戦略(荒井)−267−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)ハの開発がなされ、実用化への加速となった。昇華法結晶ではデバイスのコスト低減に向けての口径の拡大(6インチ以上)や切断・研磨等の加工技術を含む生産性等コストにかかわる課題等が残っている。デバイス構造の形成にとってエピ技術が重要な役割をもっており、高品質エピ技術の汎用化も重要である。また、さらなる結晶品質の向上のための昇華法に代わる新成長技術の可能性の追求も必要であり、それらを視野に入れた活動を開始している。SiCパワーエレクトロニクスはウェハ、デバイス開発において進捗がみられ、現在実用化への機運も高まってきていると言える。しかし、ウェハ業界にとっては需要予測が不透明で大規模な投資がしにくく、デバイス業界にとっては、ウェハの品質とコストを踏まえた市場予測の不透明性ゆえに、本格的な生産の決断がしにくい。また、デバイスのシステム応用をめざす企業にとっては、デバイスの入手が困難な状態にあり、いわば三竦すくみ的な状態が続いてきた。この関係が相互に正のフィードバックになるような支援が重要である。高額なエピ成長装置が産業化のネックになっているウェハ業界に対する技術支援がエシキャットジャパン(LLP)の設立であった。産総研においては、これまでイノベーションを生み出す産学官大型連携プロジェクト「産業変革研究イニシャティブ」をいくつかの課題について行ってきた。2008年度末より産業変革研究イニシャティブ「SiCデバイス量産試作およびシステム応用実証」が3年間を目途に開始された。そこでは、デバイス企業(富士電機ホールディングス(株))等との連携により、デバイスチップの実用レベルでの生産技術を確立し、システムでの変換器応用を目指す企業や大学等に早期にデバイスチップを供給し、応用分野の可能性を明らかにしていくことを目指している。4 戦略の評価4.1 電総研時代4.1.1 開発目標のSiCパワーデバイスへの絞り込み調査研究や政策企画担当者との意見交換によって、「ハードエレクトロニクス」の目標をウェハ開発が先行するSiC半導体に絞り込んでパワーデバイスを目的としたことにより、新産業創出と省エネルギーへの貢献というビジョンが明確になった。長期に亘る調査研究により、国家プロジェクトへの体制づくりができた。産業界の状況に柔軟に対応し、デバイス開発を目指す分散研究方式(3社)と基盤技術の構築を目指す集中研究方式の体制は有効に機能し、その後のこの分野の発展において役立った。4.1.2 研究開発立ち上げのためのスペースと人材の確保電総研では、材料・物性研究者を中心に所内からの参加者とポスドクの集団としてスタートした。集中研究方式では、企業からの参加者の果たす役割は企業の施設の活用とともに大きかった。ポスドクとして採用した材料・物性研究者がデバイスプロセスまで担当できるように成長を促し、簡単なデバイス試作を行うまでになった。ミーティングを密に行う等運営にも留意し、全体のポテンシャルをあげることに努めた。施設の導入に必要なスペースの確保も極めて厳しい状態にあった。より適切なスペースがあれば移動する等したが、移動にともなう現場の負担が大きく、デバイス開発におけるインフラの重要性をあらためて痛感した。プロジェクト当初、集中方式の研究開発は結晶成長やエピタキシャル成長で十分ではないかとの意見もあったが「デバイスまで仕上げてみて初めて材料の本質に迫れる」として、デバイス試作へ向けての努力をしたことは、長い目でみれば研究開発の継続にとってよい判断であったと考えている。4.2 産総研時代(2001年~2007年)4.2.1 研究センター化とトータルソリューションの提案自由経済の波が日本社会を変える前までの電力や通信といった社会インフラ型研究開発は、電力会社や電電公社(現日本電信電話(株))等が主導し、その潤沢な研究資金によって民間企業が積極的に協力して進められてきた。そうした恵まれた技術開発のもとでは、過剰なスペックとも言える高い技術成果は国内での需要に応えることで十分であった。しかし、自由競争による経営環境の厳しさが増すなかで、限られた国内需要予測と研究開発費の削減により、企業サイドの開発意欲が急激に低下し、こうしたインフラ研究開発分野の縮小・企業間統合等が進められ、インフラ研究開発のみならずパワーエレクトロニクス全体として、研究開発環境が急激に弱体化していた。世界的にはシーメンス、ABB、GE等世界的企業は、開発途上国を視野にこの分野の開発を強力に進めていた。こうした産業界の状況にあって、パワーエレクトロニクスにおいて中心的役割を果たす公的研究機関の存在意義は大きいと考えていた。材料研究からスタートした産総研では、ウェハ開発やデバイスプロセスの開発は比較的順調に進められたが、変換器において使用できる実デバイスの開発や変換器の実装については経験を持つ人材がほとんどおらず、産業界からベテラン研究者を招聘することによって初めて可能となった。これら招聘研究員の存在は、産総研内のエネルギー技術研究部門、エレクトロニクス研究部門や計測標準研究部門からの協力とともにトータルソリューションの実行には極めて重要な役割を果たした。「ハイテクものづくり」研究制度による一貫した基盤研究開発の実証はトータルソリューションの象徴的な成果であった。経済産業省の産総研委
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