Vol.3 No.3 2010
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研究論文:映像の安心な利用を可能にする映像酔い評価システムの開発(氏家)−185−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)の大きさは映像中の視覚的グローバル運動の時間周波数成分ではなく、主として速度成分によって支配される[10]ことが明らかになった。したがって、映像に含まれる視覚的グローバル運動の速度が、図5の縦軸に示される生体影響レベルが一定以上となる帯域に含まれる場合に、生体影響が生じると考えることができる[11]。映像酔い実験において留意すべき点は、映像酔いに対する慣れへの影響であり、これをできるだけ少なくするために、実験参加者は実験参加後に最低2週間をあけて次の実験に参加するという手続きをとる必要があった。図5の組み合わせ条件は最小限に抑えたものであるが、40名以上の実験参加者と2週間の間隔を開けるという手続きによって、この結果を得るのに半年以上を要している。4.2 映像の視覚的グローバル運動解析評価の対象とする映像に含まれる視覚的グローバル運動の種類と速度の時間的推移が明確になれば、前節で述べた知見に基づいて、どの程度の映像酔いが生じるかについての評価が可能になる。したがって、映像酔い評価システムでは、まず対象とする映像の視覚的グローバル運動を解析し、映像中に含まれる運動の成分およびその速度を抽出し、その速度の時間推移を求めることが必要である。これを実現する技術として、映像圧縮に関する研究での技術を応用したものが存在する[12]。そこで、この技術を映像酔い評価システムの構成要素として選択するとともに、研究開発段階においてこの技術を専門とする関係者やこれを実現する企業の本システム開発への参画を得た。視覚的グローバル運動解析技術は、その過程に2段階がある。第1段階では、映像領域を例えば縦と横で16×16に分割し、各領域が次の映像フレームでどこに移動したかをパタンマッチングにより探索する。そしてこの移動量と方向を各領域の動きベクトル(ローカル・モーション・ベクトル、またはLMV)として算出する。第2段階では、各領域のLMVの成分をクラスタ解析し、パン、チルト、ロール、ズームなどカメラの基本運動に対応するグローバル・モーション・ベクトルを算出する。これが本システムでの視覚的グローバル運動に対応する。この視覚的グローバル運動解析技術について検討すべきことは、解析時間と解析精度のトレードオフの問題である。本システム構築の初期段階では、各技術要素の精度向上を図るために、運動解析精度の高い手法を組み込むことでシステム全体としての精度の向上を図ったため、映像1フレームあたり15秒程度の解析時間を要した。しかし、実用面を考えると、少なくとも映像再生時間と同程度の速度で解析が行われることが望ましい。そこで、開発の後期では解析時間の縮小を図るためにLMV算出の手法を改善し、同時に解析精度について実用上問題が無いことを確認することで、視覚的グローバル運動解析技術の実用性を実現した。この解析技術は、以上のような過程で協力を得た(株)日立コンサルティングによって実現することができた。4.3 映像酔い評価モデル映像酔い評価システムでは、その核となる部分において、入力を映像中の視覚的グローバル運動の種類と速度の時間的推移とし、出力を発生し得る映像酔いの程度についての時間推移としている[13]。この入出力の間には、映像酔いの基礎特性に基づく推定が必要であることから、これを実現する映像酔い評価モデルを構築した。この映像酔い評価モデルは、以下の二つの観点から重要である。(1)本システムが、映像酔いの程度の時間的推移を推定するのに対し、4.1で述べた生体影響に関する知見には時間的要因が含まれていない。したがって、これを含めたモデルを構築するためには映像の提示時間による影響を検討する必要がある。(2)本システムは、複雑な視覚的グローバル運動を含む一般の映像での映像酔いの推定を目的としているが、4.1で述べた生体影響に関する知見は単純な視覚的グローバル運動のみを用いている。この基礎的知見に基づいて一般の映像の映像酔いの程度を推定可能であるか、検証する必要がある。そこで、まず(1)の観点から、映像中の視覚的グローバル運動の速度が、映像酔いを生じる可能性のある速度帯域に含まれる際の、映像酔いに関わる不快度の推移を検討した。その結果、その速度帯域に該当する視覚的グローバル運動の存在によって、短時間のうちに不快度が上昇する一過性の反応と、そうした視覚的グローバル運動の消失後もしばらく不快度が低下しない持続性の反応とが存在することが明らかとなった[13]。そこで、映像酔い評価モデルでは、これら二つの要因を組み込むことで、視覚的グローバル運動の種類ごとに、それが一定時間だけ該当する速度帯域に含まれるたびに一過性の反応と持続性の反応を出力する。次に、(2)の観点から、映像酔い評価モデルの精度向上を図るため、4.4節に述べる映像酔いを生じやすい映像を用意し、映像酔い評価モデルによって映像酔いの程度の時間変化に関する評価値を求めるとともに、4.5に述べる手続きにより同一の映像を用いた映像視聴によって生体影響を計測し、両者を比較する。この結果に基づいて映像酔い評価モデルの各パラメータの調整を図った。4.4 映像制作手法に基づく酔いやすい映像制作映像酔い評価モデルの精度向上に利用する映像酔いの
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