Vol.3 No.3 2010
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−258−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)編集後記研究開発の「死の谷」や「悪夢の時代」を乗り越える方法論や、社会との接点で技術が社会に受け入れられていくプロセスを「社会技術」として確立する方法論を、人類共通の財産として見える形で体系化しようとする試み、また、世界に対して発信していこうという試みが「シンセシオロジー」の目指している目標です。特に、構成学(シンセシス)の観点で他の技術と融合・連携しながら、一つの技術として社会に受け入れられていくプロセスの記述を重要と考えています。本号でも、「遺伝子解析の精度向上と試薬の開発-ライフサイエンスに用いる化学試薬の製品化-」で、「死の谷」を乗り越える方法論や「社会技術」としての確立のプロセスが、研究の展開についての考察として記述されており、死の谷を乗り越える方法論や社会技術として有効と思われる点がいくつか挙げられます。まず、第一に、(1)DNAチップなどで医療応用が急速に進んでいる分野での技術ニーズとして、合成したDNAを基板上に結合させるリンカーと呼ばれる結合部分に機能を持たせることにより、リンカーを結合できなかったDNAを除去しやすくすると共に、DNAが目的とする標的分子と疎水的相互作用により結合しやすくすることが重要であることを見出した点です。合成DNAの純度を上げることと、標的分子の補足割合を増やすという技術ニーズを的確に把握し、それを実現するアイデアを提言できた点が極めて有効なポイントです。次に、(2)大量に製造し、DNAチップとしての性能評価をすることで社会技術を確立するプロセスで、企業の方々の技術と共同研究を進めながら安定性を実現するための大きな改良を加え、従来の技術との差別化を実現して商品化まで到達した点が、極めて有効と考えられます。たくさんの苦労をしながらも死の谷を乗り越え、大量生産や安定性の確保、従来の技術との差別化などの社会技術として確立し、実用にまで結びつけた点は極めて高く評価されますし、多くの技術開発にとって参考になるものと思われます。さらに、著者らは、技術ニーズにとらわれずに新たなアイデアも入れたいと述べていますが、リンカーに機能を付加することによりDNAチップの機能を拡大させることは重要な社会ニーズであり、新たなニーズを把握し、それに対するアイデアを提案できている状況が現在の状態ではないかと思われます。シンセシオロジーに投稿された論文から、死の谷の越え方や社会技術としての確立のプロセスを自分なりに整理してみるのは、研究開発に一緒に参加できたように思われ、とてもうれしい体験でした。(編集委員 矢部 彰)

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