Vol.3 No.3 2010
70/84
−246−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)インタビュー:イノベーションを推進する根本的エンジニアリングに対して、ある種の判断力が足りないのではないかという気もします。そういう意味で、技術経営と根本的エンジニアリングは関係があるのでしょうか。鈴木 かなり密接な関係があると思います。技術経営の経営とは、必ずしもビジネスの経営ではなくて、その技術をどのようにうまく使っていくかということでもあります。先ほど“ものづくり”は“What”と“How”の掛け算と言いましたが、“技術経営”も“技術”と“経営”の掛け算だと思っているのです。技術だけ良くても経営が良くなかったらだめだし、逆に経営が良くても技術がないとだめなので、その辺のバランスをうまく掛け算として積み上げていくことが必要です。そこに根本的エンジニアリングはかなり大きなウエートを占めるのではないかと思います。赤松 では、経営だけをやってきた人たちは根本的エンジニアリングをできるのでしょうか。シンセシオロジーでは、技術というか、研究の対象をよく知っているからこそ、初めて次の展開を考えられるのではないかとも思ってます。これは研究者の能力として必要なことではないかと考えているのですが、根本的エンジニアリングは、そこはどうなのでしょうか。鈴木 私達は、むしろ技術のほうを中心に議論しているので、直接結びついているかどうかわからないのですが、シンセシオロジーにレスターさんのインタビュー記事注)がありましたよね。レスターとピオーレが「イノベーション、失われた次元」という本で言っているのは、「これからのイノベーションは分析的ではなくて解釈的に起きる」ということです。私達も今までわが国ではそういう視点が欠けていたのではないかという気がして、その意味で、エンジニアリングも単に分析のためのエンジニアリングではなく、それを拡張して解釈に結びつけていくことが大切だと思っています。当然、エンジニアリングでエクスパータイズをもっている人はそれが得意だと思いますので、今のところは分析のことしかやっていないけれども、そのバックグラウンドをもっとうまく生かして、解釈的なプロセスに入っていけば、根本的エンジニアリングとつながってくるのかなという気はします。解釈の中にはシンセシオロジー的な考え方も当然入ってきますから、その辺の分析と合成みたいなものがうまく同じバックグラウンドの中で広がりをもってくると面白いイノベーションにつながると思います。赤松 もう一つ、アメリカでは、かかわった人が本当にマーケットをつくろうというところまですごく力を入れてやりますね。日本は、いい技術ができました、というところで終わってしまうことが多い。これは想像なので間違っているかもしれないのですが、国からのファンディングを受けた時に、それが「技術開発につなげればいい」というふうに思っている企業の方が多いのではないでしょうか。国は市場化するためにファンディングしているので、そこまで責任を持って、ファンディングを受けて欲しい、と思うことがあります。鈴木 おっしゃるとおり。技術開発だけに枠をはめている。日本が目指すべきは全体体系をとらえて必要性を重視することだと思います。赤松 シンセシオロジーの論文を見ていると、技術をあるところまで必ず持っていこうという、研究者としての強い意思が不可欠な感じがします。鈴木 そうですね。そういう意味では、この根本的エンジニアリングはグローバルに提言できるかなと思っているのです。日本はつくるところがとても得意ですから、強みは強みとして、これまで蓄積した経験を最大限に活用し、弱いところをうまく強化して、潜在的課題の発見から、必要な科学技術の特定と育成、そして分野・技術の融合から社会価値の創出、また潜在的課題の発見というように、スパイラルに回るプロセスに持っていけるといいと思います。赤松 最終的なゴールは何か、それに対してこの技術をどのように使うのかということに常に立ち戻って考える、それも“しつこく”考えるという力がイノベーションを起こすのに必要なのだろうと思います。根本的エンジニアリングとシンセシオロジーの接点が見えたような気がします。興味深いお話をありがとうございました。本インタビューは2010年5月13日、港区赤坂にあるGE Energyにおいて行われました。注)リチャード・レスター, 小林直人: インタビュー シンセシオロジーへの期待, Synthesiology, 1 (2), 139-143 (2008).略歴鈴木 浩(すずき ひろし)1946年12月25日、東京生まれ。1969年東京大学工学部電子工学科卒業。1974年東京大学大学院博士課程修了、三菱電機株式会社入社、中央研究所、電力系統技術部長、電力変電技術部長、電力システムエンジニアリングセンター長を経て、役員技監。2003年GEに転職、新規事業担当の技監。電気学会副会長、日本工学アカデミー理事、IEEEフェロー、技術経営日本支部長などを歴任。電気学会電気技術史技術委員会副委員長。専門分野はエネルギーシステム、技術経営。工学博士。
元のページ