Vol.3 No.3 2010
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研究論文:映像の安心な利用を可能にする映像酔い評価システムの開発(氏家)−182−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)える化」されれば、映像酔いに対する理解が深まると考えられる。第二に、映像プロバイダらが制作または配信する映像を、客観的に評価するための手段となる。映像酔いは、後で述べるように個人差が大きく、また慣れが生じやすいため、例えば特定の個人などが個別に映像を視聴して一律に評価することは困難である。そこで、客観的に映像を評価するシステムの存在が必要になる。第三に、映像制作に携わる人々が、制作した映像についてその対処方針を具体的に検討することを可能にする。映像酔いが生じやすい時間帯とその程度が明確になれば、これを参考にして映像編集することができる。したがって、映像の生体安全性を実現するための手段を提供するものである。また、映像酔い評価システムは、ガイドラインの作成やその標準化において、ガイドラインの実効性を検証する強力なツールとなる。ISOでの議論[6]では、筆者は単純な動きの映像を用いて明らかにしてきた基礎的なデータに基づいて(4.1節参照)ガイドラインの国際標準化を図っている。本システムは、こうした基礎実験データに基づくガイドラインが、複雑な視覚運動を含む一般の映像に対して適用可能であることを示すために必要不可欠である。また規格化議論では、理想論に基づいて、現実的には遵守が困難な、必要以上に厳しい基準が提案される場合がある。本システムは、種々の条件の映像を評価することで、こうした無用な基準作りを排し、遵守可能な必要最小限の要件を満たすガイドラインの作成に寄与するものである。さらに本システムは、映像ガイドラインの発行後、これを実際に遵守するための手段を提供する。ガイドラインに基づいた本システムによって映像を解析・評価し、個々の映像による酔いの程度を「見える化」することで、映像の制作・編集に対する方針を立てやすくなると考えられる。映像酔い評価システムの開発については、これまでさまざまな場において関係各業界に情報を伝達する機会を得てきたが、実際に、多くの関係者から利用希望の声をいただいている。例えば、映像制作の現場で実際に映像酔いの軽減が課題となっており、経験的にどの程度動きを押さえるかを理解しているつもりでも、それを客観的に確認したいとの声もいただいている。したがって、映像酔い評価システムは映像酔い軽減の重要性を理解している人々にも必要性が高いと言える。3 研究開発のシナリオ映像酔い評価システムの開発は、(財)機械システム振興協会の委託事業として(社)電子情報技術産業協会「映像酔いガイドライン検証システムの開発(2006年度;2007年度は、同システムの実用化)に関するフィージビリティスタディ(2006~2007年度)」として行われた[7]。この研究開発委員会では、映像酔いなどの生体影響に関する大学などの研究者の他に、映像酔いに関心のある映像メディア関連企業や映像制作者の参集が得られ、実際に研究開発の実施過程において、それぞれの立場からより具体的な協力や共同研究による連携を図ることができた。例えば、後述するように、本システムに不可欠な視覚的グローバル運動解析の高速化や、映像制作者による酔いやすい映像制作などでの協力である。これにより、当初の目標以上に、より実効性の高い映像酔い評価システムを開発することができた。本システムの構成を図2に示す。この構成要素のうち、映像酔い評価モデルについては、単純な視覚的グローバル運動を用いて生体影響を計測した結果を基に出力するものであり[8]-[10]、必ずしも、視覚的グローバル運動が複雑に混じり合う一般の映像に対して直ちに妥当な出力が保証されるわけではない。そこで、映像酔いの推定結果を、実際の生体影響計測によって較正する必要があり、そのために研究開発に当たっては以下の手順を採用した(図3)。(1)システム全体の構成を行う。(2)酔いを生じやすい映像を用意し、これをシステムに入力した際の評価結果を得ると同時に、同一の映像を用いた視聴実験によって生体影響を計測し、両者を比較する。(3)比較結果に応じて、システムの各構成要素を改良し図1 映像酔い評価システムの利用による映像酔い軽減への効果映像酔いの軽減映像ガイドラインの活用映像酔いの重要性認識映像プロバイダー評価による要検討箇所の対処方針検討制作した映像の客観評価による確認映像制作前に映像酔い条件の把握映像制作の各段階でのシステムの活用映像酔いの時間推移推定映像酔い評価システム映像映像酔い評価システムの機能
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