Vol.3 No.3 2010
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研究論文:安全・安心のためのアニマルウォッチセンサーの開発(伊藤ほか)−233−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)具体的に消費電力を検討してみると、採卵鶏の場合、550日程度で淘汰(廃鶏)されるので[1]、端末寿命としては2年程度確保する必要がある。仮に腕時計などに使われる酸化銀電池SR721という0.5 g程度の小型ボタン電池を使う場合、SR721の公称電池容量は25 mAhなので、2年間動作するためには、平均消費電流を1.4μA以下にしなければならない。無線センサー端末は、通常、センサー素子、センサーインターフェイス回路、マイクロコントローラー(MCU、マイコン)、無線通信用ICおよび電源などで構成される。表2に示すように、低消費電力型のマイコンを用いた場合でも、マイコンと無線通信ICのみの消費電流で1μA程度になるため、さらにセンサーや増幅器の待機および動作分、動作時のマイコンと無線送信による消費電流分などを考えれば、消費電流1.4μA以下というのは実現が容易ではないことがわかる。そこで、本研究では、マイコンなどの半導体素子のさらなる低消費電力化を図るというような方法ではなく、通信およびセンシングの低消費電力化を図ることにより、平均消費電力を従来の1000分の1の1μWレベル(消費電流0.65μAレベル)の端末を目指している。つまり、待機電力を極力減らしてセンシングや通信の効率化を図ること、端的にはセンシングや通信の頻度や量を必要最少限にしたり、アンテナの高効率化を図るといった方法により、低消費電力化を達成しようというのが本研究の戦略である。上述した“センシングや通信の頻度や量を最少化する”ために最も重要なコンセプトと考えているのが、イベントドリブン(Event-driven)という考え方である。センシングや通信の頻度や量を単に減らすだけであれば、間欠動作をさせれば良い。例えば、鶏の健康管理を体温測定だけで行うのであれば、1分ごとに体温を計る必要はなく、30分に1回程度で十分であり、センシングや通信に要する電力を平均消費電流でいえば0.1μA程度にすることは難しくなく、待機消費電流と合わせて1.4μA以下にすることは十分可能である。しかし、ヒトの場合でも高熱の出る病とそうでないものがあり、私達はしばしば体温だけでなく、“疲れているようだ”、“元気がない”といった活動の低下も合わせて、医療機関にかかるかどうかを判断する。そこで、本研究のアニマルウォッチセンサー端末でも、ある種の活動量センサーの搭載は不可欠だと考えていた。実際、後出図7に示した山口株のようにH5N1の中でも毒性の強いものでは体温が上昇することなく死に至る場合があり、体温モニタリングだけでは早期発見ができないが、その場合でも活動量の低下から感染の推定を行うことが有効であることがわかっている[3]。活動量をセンシングする場合、30分に一回測定を行うといった方法では、その瞬間の活動状態しかわからず、その瞬間の値のみをもって活動的であるかないかを判断するのは難しい。したがって、本研究では、一定時間間隔でセンシングして送信するタイムドリブン型ではなく、例えばある閾値以上の活動が行われたら、センシングおよび通信を行うイベントドリブン型にすべきであると考えた。イベントドリブン型で難しいのは、適切なイベントの選定とその閾値設定であり、この閾値を鶏の感染実験データ分析から取得するとともに、それに適したセンサーを開発するというのが、本研究の重要なオリジナリティの一つである。また、送信電力は電文量に比例するため、通信回数の低減とともに、送信電文の短文化も重要である。電文は、動物福祉食の安全人獣共通感染症(鳥インフルエンザ)対策アニマルウォッチセンサー精神衛生(心のケア)Pets安全・安心な社会環境保全医療・健康衛生Farm AnimalsLaboratory Animals(Semi-) Wild Animals表1 アニマルウォッチセンサー端末とヒト用健康モニタリング端末との比較表2 無線センサー端末を構成するデバイスの典型的な消費電流値の例図2 アニマルウォッチセンサーの応用数千円~100円(1米ドル、ユーロ)程度 端末価格体温センサー、活動量(加速度)センサー、脈波センサー、心電センサーなど当面、体温センサー、活動量(加速度)センサー程度センサーの種類受信機は携帯電話、通信距離は1 m以下最短でも10 m程度の通信性能が必要受信機・通信距離携帯電話程度の充電頻度なら許容充電不可、メンテナンスフリーが基本電源腕時計サイズなどが典型、重量は数10 gなら許容範囲鶏の場合は、数cm角、重量は数g以下端末サイズ・重量ヒト用健康モニタリング端末アニマルウォッチセンサー端末(主に鶏)主な仕様端末650 μA(1 mW)程度250 μA/MIPS[2]動作(無線送信)時0.2 μA程度0.8 μA[2]待機(スリープ)時無線通信ICマイコン(MCU:MSP430)
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