Vol.3 No.3 2010
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研究論文:安全・安心のためのアニマルウォッチセンサーの開発(伊藤ほか)−232−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)大するため、現在義務付けられている生産者による報告によって、時間的には侵入から比較的短期間で発生が検知される。しかし、後出図7で示すように毒性が強いということは伝播感染力も強く、目に見えて異常が確認されるような状況では相当な広範囲に感染が拡大している可能性が高いため、経営的な損失が拡大するだけでなく、生産従事者にも危険である。一方、毒性がそれほど強くない場合には、他の要因との間で見分けがつきにくく、死亡鶏数が報告義務を要しない範囲に収まっている場合には、必ずしも迅速な通報は望めない。さらに、我が国では、近年急速に養鶏場の大規模化が進んでおり、農家の深刻な高齢化・人手不足と相まって、従来ならば見つけられた健康異常のサインも見落としやすくなっている。つまり、鳥インフルエンザ発生の早期発見という公衆衛生や食の安全の確保からの必要性とともに、生産性の向上という観点からも、鶏集団の健康状態を高いレベルで把握できるような技術を導入することが望まれている。このような背景のもと、本研究では、図1に示すような養鶏場の鶏の健康をモニタリングするネットワークシステムの開発を試みている。基本的には、数%以上、将来は全羽の鶏に無線センサー端末を装着して、その活動量や体温をモニタリングすることで、それぞれの健康状態を管理・監視しようとするものである。例えば、ある端末で体温異常が検出された場合には、体温変化パターンとあらかじめ集積された実験データとを照合して鳥インフルエンザなどの感染の疑いを自動的に判断したり、集団での異変パターンから個体の問題なのか、感染症なのか、環境制御の問題なのかを推定したりするなどして、必要に応じて生産者への警告、獣医への連絡あるいは行政への報告を自動的に行うようなシステムである。私達はこのような無線センサーネットワークシステムを実現するためには端末の小型化、低消費電力化、低コスト化が必須であり、それらのキーとなるのは、近年さまざまなセンシングデバイスあるいはマンマシンインターフェースデバイスの製造技術として成熟し、More than Moore(機能の多様化による電子デバイスの進化)の主役として期待されているMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)技術の活用とその他必要関連分野技術との融合だと考え研究を進めてきた。本稿では本研究プロジェクトで得られた感染実験データなども紹介しながら、MEMS技術を活用した超低消費電力(Ultra Low Power: ULP)小型無線センサー端末の開発コンセプトを中心に述べる。2 アニマルウォッチセンサー端末前述したように、本研究では、鳥インフルエンザ発生の早期発見システムへの応用が可能な鶏健康モニタリングシステムの開発を行っているが、開発している無線センサー端末は、鶏以外の畜産動物はもとより、将来的には野生動物や愛玩動物への適用も視野に入れて(図2)、“アニマルウォッチセンサー端末”と呼んでいる。動物といっても多種多様であるが、主に鶏のような比較的小さな畜産動物を想定したアニマルウォッチセンサー端末とヒト用の端末を比較すると表1のように整理することができる。重要なのは、開発しようとしている端末はヒト用として開発されてきた端末とは要求仕様が何から何まで全く異なるということであり、特に端末の低消費電力化にかかわる技術的なハードルがかなり高いということである。<小型フレキシブル端末>翼帯型 6 x 30 x 0.1 mm3,1 g 永久使用(健康時2年間)315 MHz, 通信距離10 m 平均消費電力 数 µW以下 (目標1 µWレベル) 養鶏場管理・監視システム 圧電活動量 センサー デジタル温度センサー カスタムRF-IC 小型電池 “Wing Band”異常情報異常鶏位置情報死亡鶏異常鶏体温グラフ個別体温履歴体温履歴比較発熱比較ケージ鶏舎断面図図1 鶏健康モニタリングシステムのイメージ

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