Vol.3 No.3 2010
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研究論文:遺伝子解析の精度向上と試薬の開発(小松ほか)−230−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)部門生体分子工学研究グループ研究グループ長。本論文では、テーマの立案、統括と、核酸の合成と活性評価を担当した。小島 直(こじま なおし)1998年北海道大学大学院薬学研究科博士後期課程修了。博士(薬学)。2001年工業技術院北海道工業技術研究所入所。同4月(独)産業技術総合研究所生物機能工学研究部門研究員。2010年産業技術総合研究所生物プロセス研究部門生体分子工学研究グループ主任研究員。本論文では、モノマーの化学合成を担当した。査読者との議論 議論1 2 目標を実現するためのシナリオコメント(地神 芳文:産業技術総合研究所糖鎖医工学研究センター)この部分は、図1の説明がわかりにくいので、より具体的に遺伝子解析システムにおける「要素技術」とそれらの相互の関連、「標識」と「DNA合成」との関連などを説明すると良いのではないかと思います。また、図3に出てくる「従来技術」と「第1世代型(ssN-linker)」、「第2世代型(ssH-linker)」について、技術の特性・優劣などを表にして比較しながら、どこに着目して、「遺伝子解析全体の精度の向上に寄与するシナリオ」を想起したのか、また、その過程で、なぜ、「ニッチ分野におけるニーズを選択することになった」のかを説明すると、筆者の思考過程がよく理解できて、読者の参考になると思います。回答(小松 康雄)図の説明とシナリオの部分を明確になるように書き換えました。また、各アミノリンカーの利点と欠点をまとめた簡単な表を作成しました。議論2 3.1.4 問題点の発覚コメント(地神 芳文) この部分は、第2世代型アミノリンカーの開発の動機付けとなる重要な部分であり、より詳細な説明がほしいところです。特に、見出された問題点が、なぜ、ssN-linkerのライセンスの中止を決断し、一旦プロジェクトを中断することとなったのかについて、より詳しい判断の根拠や状況の説明があると良いと思います。また、後半部分「ロイヤリティーは減るが、開発した成果を国内外の多くの企業などで使用してもらうことを選択した」の背景にある筆者の考えや社会の状況などを追加すると、構成学的な意義がより明確になると思います。回答(小松 康雄)ssN-linkerは高い反応性を示すと同時に、化学的な不安定性を有していました。ssN-linkerの変質は限定された条件においてのみ確認されます。しかし、ユーザーがアミノ化DNAを保存する場面には、あらゆる状況が想定され、その保存中にリンカーが変質して機能が低下する可能性を完全には否定できませんでした。また、そのような危険性を内包する化合物を民間に供与することは、企業側にリスクを転嫁することに近い意味となります。そこで、プロジェクトはかなり進行しておりましたが、より良いリンカーの開発を早急に進めることを筆者は選択しました。ライセンス化の寸前でこのような決断を選択した背景には、ユーザーからのクレーム対応は非常に大変であり、将来的に大きな問題発生の可能性を残す、という漠然とした個人的考えからくるところが大きいと思います。 国外へのライセンスに関しては、研究開発を進めた当初から、国内のみでなく海外にライセンスすることも念頭に行ってきました。全世界で使用してもらうことは、開発した技術がさらに進化する可能性もあると考えてこちらを選択しています。またロイヤリティーに関しても、私達、産総研が取得するという考えよりも、図4に示したように民間において複数の事業が行われるようになることが重要であると考えています。議論3 3.2 標識試薬コメント(地神 芳文)この部分、特に開発した新規な標識試薬と従来の標識試薬との特性比較、これを基にした今後の展開について、より具体的にどの様な社会的インパクトが期待されるかについてコメントがあると読者の参考になると思います。回答(小松 康雄)開発した標識試薬の核酸に対する高い反応性は、微量サンプルの検出と作用させる試薬量の減少(バックグラウンド値の低下)につながると考えています。また、試薬の構造における特徴は、標識以外の核酸認識低分子の創成においても重要な知見を与えたと考えています。こうした重要性が分かるように本文を書き換えました。議論4 4.1 研究の展開コメント(一條 久夫:(株)つくば研究支援センター)新たな標識試薬に辿りついたプロセスを簡単に記されると、研究開発過程で行われた研究要素の取捨選択が分かり易く、理解が深まるように思います。回答(小松 康雄)第二世代型試薬の開発がなければ実用化もなかったため、この開発が大きなポイントでした。ご指摘いただいたとおり、考察部分にこのような開発の重要性を書き加えました。コメント(地神 芳文)「“流行ではない開発”を選んだことが結果的には重要であったと思われる(要因1)」は、なぜこれが重要なのかの説明がほしいし、また、「製品化のための広範な研究を実施するために所内外での連携(要因2)」は、連携の具体的な実態の説明がほしいと思います。図7の開発3については、5.将来の課題で、この様なシーズ志向からの研究が、先のニーズ志向の研究とどう違うのか、研究手法の違いがどの様な研究成果や波及効果(社会的インパクト)の相違に結び付くと想定しているかを考察してほしいと思います。また、先のニーズ志向の研究からシーズ志向の研究に回帰しているように思われますが、研究者として、なぜこの回帰が必要なのか、この間の経験に基づく筆者の「思い」や「将来の夢」などを是非お聞きしたいと思います。回答(小松 康雄)流行のテーマを開始することは、必然的に追いかけた研究になる可能性が高く、人的余力も無い場合には追い付けずに終了することもあると考えていました。一方、既に確立したと思われた技術にも、時代の変化に伴った新たなニーズの出現によって、これまでにはない問題点が発生している場合もあると考え、確立したと考えられた技術に再度、目を向けて問題点を掘り起こしたことが本件に限っては良い結果につながったと考えています。今回の成果にかかわる他の要因に関する部分も具体的に書き換えました。図6にも関連性を示す文章を書き加えました。ニーズとシーズに関しては、最初の二つの研究開発は、ニーズ志向的な研究を進めてきました。しかし、ニーズのみにとらわれた場合には、本文中にも記載したように、既存の類似技術との競争(入れ替わり)が必要になります。既に浸透した既存技術を入れ替えることは、たとえ技術的に優れている場合であっても困難なこともあり、さらに時間を要します。そのため、全く類似品が存在しない技術を提供することで、最終的に実用化に向かうルートを今回は試みたいと考え、第3の試薬開発を開始しました。しかし、このようなアプローチもニーズとは異なる場所に着地する場合も多々あります。そのため、最適なアプローチは不明ですが、実用化には両者が必須で、さらに研究の過程でそれらのバランスをとって修正することが必要ではないかと個人的には考えています。
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