Vol.3 No.3 2010
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研究論文:遺伝子解析の精度向上と試薬の開発(小松ほか)−227−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)DNA合成会社での評価は高く、同リンカーの試薬単体が国外化学薬品メーカーから全世界販売されることにつながった。それまで一社のDNA合成会社にのみssH-linkerの使用は限定されていたが、これにより複数のDNA合成会社に対して同試薬が販売されるようになり、ssH-linkerをDNAの受託合成に利用する企業の裾野が広がることになった。ライセンス対象が安価な試薬単体に変更されることは、同時にロイヤリティーが減ることを意味していたが、開発した成果を国内外の多くの企業、研究機関で使用してもらうという以前からの目標を達成する方を我々は選択した。4.1.6 ライセンス後の開発従来型のアミノリンカーは、これまでの長い期間に全世界で使用され、既存の遺伝子解析システムの多くに既に組み込まれている。そのため、性能が高いということのみで既存のリンカーの全てを、構造も異なる新しいリンカーに置き換えることは容易ではない。すなわち、ライセンスはできたものの、「物を売る、買ってもらう」ということがどれだけ難しいことであるかを改めて実感することになった。そこで、着実に我々のリンカーを広めるために、論文発表による科学的実証は勿論のこと、遺伝子解析以外の新しいニーズを提案する応用研究も行った。その結果、核酸を用いる医薬品の分野においても、同試薬が役立つ場面があることを示すことができた[5]。最近ではそうした新たな分野からもリンカーの需要が出てきている。ライセンスで終わりにするのではなく、新たな利点を見出すべく継続的に研究開発を行うことはニッチ分野の技術を育てる上で重要であることを実感した。4.2 標識試薬筆者らは第一世代型のアミノリンカーの開発において、芳香族基に近接したアミノ基が標的分子と効率良く反応することを見出していた。この原理をいち早く他の課題にも発展させるため、次に標的側の核酸を標識する試薬の開発を計画した。アミノリンカーはプローブ側の修飾に用いる試薬であったことから、優れた標識試薬を開発することでプローブ側と標的側のそれぞれにかかわる試薬開発を行うことを目指した。生体から回収したDNAやRNAを直接標識するには試薬が核酸と強固に結合する必要がある。酵素を利用して標識する手法もあるが[6]、その多くは核酸塩基の種類によって標識効率が変動する場合が多い。そこで、自然現象によっても、人工的にも、DNAやRNA中に発生する“アルデヒド基”に対して効率良く反応する試薬であればアミノリンカーと同様に汎用性を有すると考えた。しかし、アルデヒド基に反応する試薬として既に幾つか製品化されていたため、この開発においてもそれらを上回る性能を発揮することが必要条件となった。そこで核酸に対して高い反応性を持たせるために、アミノリンカーの開発で得たノウハウ(芳香族基の導入による核酸への親和性の改善)を活用し、アルデヒド基に反応する部位である試薬側のアミノオキシ基に隣接して芳香族基を連結した試薬を合成した(図6)。単に疎水性基を導入したのみでは試薬が水溶液に難溶であったことから、水溶性の向上と負電荷の核酸に対する高い親和性を発揮させる目的で、正電荷を有するグアニジノ基を標識試薬分子に導入した化合物を合成した。反応の結果、芳香族基とグアニジノ基を有する新しい標識試薬は、核酸中のアルデヒド基に対して市販の試薬よりも高い反応性を示すことが明らかになり、実際のDNA中に生成したアルデヒド基も高感度に検出できることが明らかになった[7]。このように核酸への反応性が高くなることで、微量の遺伝子の標識も可能になり、高感度な遺伝子検出につながることが期待できると考えている。また、芳香族基とグアニジノ基を並列した基本構造が核酸に高い親和性高い結合効率NH2HNHN迅速な精製が可能脱保護が容易で結合させる分子疎水性保護基DNAの末端ssH-linkerH3CO図5 ssH-linkerの性質の概略疎水性保護基の脱保護速度と、アミノ基への反応が向上した。図6 標識試薬と反応の模式図+と-は、正電荷のグアニジノ基と負電荷のリン酸ジエステル基をそれぞれ示す。AP siteは塩基を持たない損傷DNAの構造であり、アルデヒド基を有する。SNHHNONHOOOHNNHHNOOH2NOHNNH2n+- - - - ビオチン親水性相互作用部位疎水性相互作用部位NH2O塩基AP siteDNA二本鎖n=0.1
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