Vol.3 No.3 2010
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研究論文:遺伝子解析の精度向上と試薬の開発(小松ほか)−225−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)4.1.2 第一世代型アミノリンカーの開発従来型のアミノリンカーは直鎖の炭素リンカーの末端にアミノ基が結合したシンプルな構造であるが、我々はこの炭素のリンカー上に芳香族基を結合させた新規なアミノリンカーを初めに開発した(図3;第一世代型アミノリンカー)。導入した芳香族基と標的分子との間で疎水的相互作用が働き、アミノ基と標的分子との水溶液中における会合が促進され、反応効率が上がると考えた。また、芳香族基の存在によってアミノリンカーの有無に依存したDNA分子の疎水性の違いが大きくなるため、逆相カラムによる分離精製が容易になることも同時に期待した。芳香族基とアミノ基間の距離(図3;L1、L2)を変えた幾種類かのアミノリンカー試薬を合成し、アミノ化DNAの化学的性質を調べたところ、第一世代型アミノリンカーでは、水溶液中におけるアミノ基への結合反応と、逆相カラムによるDNAの精製効率とも従来型に比較して非常に改善されることが示され(表1)[3]、我々は2004年に第一世代型アミノリンカーに関する特許を民間企業と共同で出願した。4.1.3 実用化を目指した研究第一世代型の中で最も高い性能を示した“ssN-linker”を製品化用のアミノリンカーに選択し、ssN-linkerが結合したDNAを搭載した“高性能DNAチップ”の製品化を共同研究先企業と計画した。少数のDNAを用いた基礎データの収集は産総研において既に終了していたが、同リンカーをバイオ系のユーザーに実際に使用してもらうには、①リンカー試薬の合成、②アミノ化DNAの合成と精製、③アミノ化DNAを用いたDNAチップの作製と性能評価、の三つの大きな課題を解決しなければならなかった(図4a)。しかし、共同研究先の企業が上記③を実施するバイオ系企業であったため、①、②の化学合成にかかわる事業を実施することが不可能であり、バイオ分野に用いる化学試薬を製品化する難しさを痛感することになった。そこで筆者はそれら合成事業を行う企業に新型リンカーの性能、利点を説明し、同リンカーを取り扱ってもらえるよう交渉した。その後、あるDNA合成企業がssN-linkerに関心を持っていただいたことで、同社にリンカー試薬とDNA合成技術の両方を供与することになった(図4b、c)。試薬単体の大量合成(①)の移転は容易に進んだものの、多数のDNA合成と精製(②)に関する技術移転には時間を要した。これは、産総研の実験室レベルでは、多くても数十本のアミノ化DNAの精製を手動で実施して精製することでプロトコルを確立していたのに対し、民間では数百~数万本のDNAの合成と精製を機械による全自動で行うことが必要で、これらに適するようにプロトコルを調整する必要が生じたためである。一方、合成関連の作業(①、②)と並行して、合成した複数本のssN-linker修飾DNAをスライドガラスに固定化したDNAチップを作製し、その性能を評価する作業も平行して進めていた(図4b、c)。上流(①、②)と下流(③)の両方でリンカーの性能を評価することは、極めて大変な作業であったが、同試薬を実際にバイオ分野のユーザーにいち早く使用してもらうようにするには上流から下流までのルートを確立し、従来技術よりも優れていることを示す必要があると考え、関係先企業と連携して作業を進めた。その結果、いずれの評価においても我々の開発した試薬が従来型よりも高性能であることが証明され、DNAチップの販売に加え、ssN-linker修飾DNAの製造、販売をDNA合成会社にライセンスするところまで話が進んだ。4.1.4 問題点の発覚と製品化の中止試薬の製品化には、試薬自体と試薬が導入されたDNA サンプル側標識回収、(DNA、RNA)サンプル標識試薬a遺伝子検出用プローブ基板蛍光化合物などアミノリンカー修飾DNAリンカースライドガラス、ビーズなど検出側 (プローブ)bc図2 アミノ化DNAと核酸標識アミノ化DNAは、 基板への固定化(a)、化学物質との結合(b)などに用いられる。相補的な配列を有するサンプル側は、標識試薬によって標識される(c)。
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