Vol.3 No.3 2010
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シンセシオロジー 研究論文−223−Synthesiology Vol.3 No.3 pp.223-230(Aug. 2010)1 研究の目標遺伝子はあらゆる生物、ウイルスにおいて共通の言語であり、それを読み解き、働きを理解することはそれらの本質を知る上で不可欠である。この遺伝子の解読、解析技術はこれまでの多くの研究の集積から構築されてきた。例えば、現在では個人の遺伝情報解読が短時間で完了する水準にまで達し[1]、遺伝子間あるいは遺伝子−タンパク質間などによって形成される、膨大かつ複雑なネットワークに関しても解析可能になっている[2]。このように高度に進化した遺伝子解析技術によって、遺伝子のかかわる情報は基礎研究のみでなく、医療、食品、治安などの社会生活の広範な領域に活用されるようになっている。今後、バイオ分野のみならず、工学分野などの多くの領域の発展ともあいまって、遺伝子解析技術は一段と高機能化することが予想される。それと同時に、遺伝子情報は現在よりも私達にとってさらに身近になり、今以上に私達の社会生活は影響を受ける可能性が高い。そのため、遺伝子解析技術は高機能化と同時に高い精度を維持しなければならない。しかし、遺伝子解析を構成する全ての技術の性能が高機能化を続ける解析システムに追い付いているとは限らない。そこで我々は、遺伝子解析に用いられる化学試薬の性能に着目し、その機能を高度化することによって遺伝子解析全体の精度の向上を目指し研究を行った。2 目標を実現するためのシナリオ遺伝子解析法の多くは、革新的基盤技術を中心に、複数の既存技術が統合されてシステム全体が形成されていると考えることができる。ここで、既存の要素技術の一部は異なる遺伝子解析技術にも共通して用いられている場合も多い。これらの関係のイメージを図1に示した。例えば、標的遺伝子と結合する“合成DNA”や、遺伝子の高感度検出のために用いられる“標識試薬”は、複数の遺伝子解析法に共通に用いられる代表的な要素技術の一つである。多くの研究は必然的に新しい中心技術の開発に費やされ、多くの研究予算が投入されている。しかし、中心となる技術に連動したことにより、従来技術にも新たな問題点小松 康雄*、小島 直遺伝子解析は、複数の要素技術が統合されて構築されている。多くの要素技術の中で、筆者らは化学試薬に着目し、その機能を高度化することで遺伝子解析技術全般の精度を向上させることを目指した。本稿では、遺伝子解析用試薬の開発に関する着想から製品化に至るまでの展開を述べた後、そのプロセスに関して考察する。遺伝子解析の精度向上と試薬の開発− ライフサイエンスに用いる化学試薬の製品化 −Yasuo Komatsu* and Naoshi KojimaDevelopment of novel chemical reagents for reliable genetic analyses- Process from an original idea to marketing of a chemical product used for life science -High performance genetic analysis is an integration of various inter-correlated technologies. Of all the technologies, chemical reagents are indispensible for modifying DNA or RNA, yet the total performance of genetic analysis is sometimes limited by the insufficient capability of reagents. We have developed novel chemical reagents to increase accuracy and sensitivity in genetic analysis. We describe the development process from obtaining the original idea to marketing of the products and discuss important factors in the process.キーワード:遺伝子、遺伝子解析、DNA、RNA、固定化、検出、標識、アミノ基Keywords:Gene, genetic analysis, DNA, RNA, immobilization, detection, labeling, amino group産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 〒062-8517 札幌市豊平区月寒東2条17-2-1Bioproduction Research Institute, AIST 2-17-2-1 Tsukisamu-Higashi, Toyohira-ku, Sapporo 062-8517, Japan *Original manuscript received February 18, 2010, Revisions received April 6, 2010, Accepted April 6, 2010
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