Vol.3 No.3 2010
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研究論文:ものづくり産業の国際競争を支援する電気標準(中村ほか)−217−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)しか存在しない。)このため量子化ホール抵抗から導かれるキャパシタンスは、ある特定の周波数での値に限られる。(通常、C1=C2=1000 pF、R1=R2=100 kΩとするため、平衡周波数はω=104 rad/s、すなわち約1.592 kHzとなる。)これはクロスキャパシターによるキャパシタンス標準とは異なる欠点である。(クロスキャパシタは原理的に周波数に依存しない。)図1で示したように、開発するキャパシタンス標準の直接の供給先は高精度の校正サービスを行う上位校正事業者である。上位校正事業者の候補として想定される計測器メーカーや民間校正事業者にキャパシタンス標準の校正周波数についてニーズ調査したところ、「1 kHzでの校正を希望」とのことであった。しかし、図4に示す回路を用いる限り、量子化ホール抵抗から導出されるキャパシタンスは周波数1.592 kHzでの値に限定される。1.592 kHz と1 kHzの差、つまり592 Hzの差は無視できるとの考えも一般的にあったが、産業ニーズを満足させるには、標準供給の開始前に、校正対象である溶融石英型の標準キャパシターについて1 kHz付近の周波数特性を詳細に測定・評価する必要があると判断した。そこで、図4の回路に改良を加え、平衡周波数が可変となる新たな回路構成の直角相ブリッジを考案した。図5に周波数可変型直角相ブリッジの回路を示す。従来型回路(図4)に二つの誘導分圧器を加えると、ブリッジの平衡条件が式(4)で表わされることを見出した。ω2C1C2R1R2=ρ1ρ2 (4)ここでρ1ρ2は新たに加える二つの誘導分圧器の分圧比である。この分圧比ρ1ρ2を任意にとることによって、原理上あらゆる周波数において直角相ブリッジが平衡することになる。実際には、ρ=n/8(n=1,2,3,・・・)を採用してブリッジを構築し、平衡周波数が1.25n/2π kHzとなる周波数可変直角相ブリッジを実現した[10]。このブリッジを用いて溶融石英型標準キャパシターの周波数特性を測定したところ、図6に示すように、あるタイプのキャパシター(GR1408)においては、1 kHz付近で周波数による容量変化が存在することが判明し、「溶融石英型キャパシターにおいて、1.592 kHzと1 kHzの範囲では周波数依存性はない」との一般的考えを覆す新たな知見が得られた[11]。またそれと同時に、主な二次標準器として想定されるAH11A型標準キャパシターについては、周波数による容量変化は無視できることも確認できた[12]。以上のように、直角相ブリッジに周波数可変となる新たな回路構成を取り入れた「量子化ホール抵抗に基づくキャパシタンス標準」(図7)を開発した。開発したキャパシタンス標準の不確かさ評価を行ったところ、標準不確かさ0.04 ppmと見積もられ、目標とする0.1 ppm以下を達成することができた。またこの結果は国際比較によっても確認され(図8)、他国のNMIの専門研究者による技術評価(ピアレビュー)を経て、国際同等性が十分にあること(CMC登録[6])が証明された。なお、V-VR1R2D1D21C2CjVρ1ρ2AH11AGR140880010001200140016001800周波数 (Hz)キャパシタンスの変化量 (ppm)0.2000.000-0.600-0.400-0.200-0.800-1.000図5 周波数可変直角相ブリッジ図6 溶融石英型標準キャパシターの周波数特性V-VR1R2D1D21C2CjV図4 直角相ブリッジ

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