Vol.3 No.3 2010
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研究論文:ものづくり産業の国際競争を支援する電気標準(中村ほか)−216−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)おける単位長さ当たりのキャパシタンスが式(1)となる。したがって、実際にクロスキャパシターを実現する場合には、図2に示すように、四つの電極間に別のガード電極を挿入する必要がある。ガード電極が挿入されている部分はキャパシタンスがゼロとなる。この状態でガード電極を移動させると、その移動分だけキャパシタンスが増減する。つまり、ガード電極の移動距離分のクロスキャパシタンスを求めれば、それは式(1)に従うことになる。この手法を用いて、多くのNMIがキャパシタンス標準を確立している[2]-[5]。しかし、実際にクロスキャパシターを製作するには電極棒の機械加工の精度が極めて重要になる。表面の粗さや電極棒の平行度がクロスキャパシタンスの不確かさに直接影響することになる。また、クロスキャパシターによるキャパシタンス測定には熟練技術を要し、これを用いて0.1 ppm以下の標準を実現するのは容易ではない。クロスキャパシターの先進国であるNMIA(豪)、NIST(米)、PTB(独)、LNE(仏)においては、これを用いて0.1 ppm以下の標準を実現しているものの、他のNMIにおいては0.1 ppmを超える不確かさとなっているのが実状である。また、産総研(旧電子技術総合研究所)においても、かつてクロスキャパシターを製作・実現した実績はあるが、不確かさ0.1 ppm以下は達成されていない[8]。キャパシタンス標準を実現するもう一つの方法は、図3に示すように、量子化ホール抵抗を基準として、抵抗標準からキャパシタンス標準を決定する手法である。1990年以降、直流抵抗の標準は量子化ホール抵抗を基準に決めることが世界的に合意されている。産総研(旧電子技術総合研究所)においても、この合意(正確には、第77回国際度量衡委員会勧告、1988年)に基づき、量子化ホール抵抗標準を開発・整備し、量子化ホール抵抗に基づく抵抗標準の維持・供給を行ってきている[9]。標準の起点を量子効果に求めれば、いつ、誰が、どこで行っても同じ結果が得られる。特に量子ホール効果を示す式は式(2)で与えられ、同式から明らかなように、量子化ホール抵抗RHの決定に他の基準や標準は一切必要としない(hはプランク定数、eは電子の素電荷、iは量子化の次数を表す整数)。RH(i)= h/ie2 (2)これは、クロスキャパシターにおいては電極棒をいかに精度よく作製しても、キャパシタンスの決定には必ず長さ標準が必要になることとは大きく異なる利点である。また、上述のように、量子化ホール抵抗は直流抵抗標準の起点であり、したがってキャパシタンスも同じく量子化ホール抵抗から導くことができれば、装置の共有化、効率化が可能となり、標準を開発した後の維持・管理の面でも有利である。そこで、キャパシタンス標準の実現方法として、量子化ホール抵抗を基準に導出する方法を採用することとした。3.2 ニーズに対応した新たな手法の開発量子化ホール抵抗からキャパシタンスを導くには、図3に示すように、各種ブリッジ回路と特殊な抵抗器が必要となる。具体的には、交流抵抗ブリッジ、直角相ブリッジ、キャパシタンスブリッジ、および交流-直流差が計算可能な特殊形状の抵抗器である。これら機器をそれぞれ高精度に開発し、それを用いて抵抗標準からキャパシタンスへ順次測定を行うことで、量子化ホール抵抗からキャパシタンスが導出できる。この一連の測定の中で、抵抗からキャパシタンスへの変換を行う直角相ブリッジはキャパシタンス標準の最終的な不確かさを決めるうえで特に重要である。図4に直角相ブリッジの回路構成を示す。同図から直角相ブリッジの平衡条件は、ω2C1C2R1R2=1 (3)となる。ここで、ωは角周波数、C1、C2はキャパシタンス、R1、R2は抵抗である。この式から明らかなように、直角相ブリッジは、周波数依存型のブリッジである。つまり、直角相ブリッジにおいて、抵抗を基準にキャパシタンスを決める場合、平衡周波数は一意的に決定されることになる。(式(3)から明らかなように、比較すべき抵抗R1、R2とキャパシタンスC1、C2を固定値とした場合、平衡周波数ωは当然一つDC交直差計算可能抵抗器(10 kΩ)交流抵抗器(100 kΩ)ACキャパシタンスブリッジ直角相ブリッジ交流抵抗ブリッジキャパシター(1000 pF)キャパシター(100 pF)キャパシター(10 pF)量子化ホール抵抗( = 2)i図3 量子化ホール抵抗に基づくキャパシタンス標準

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