Vol.3 No.3 2010
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シンセシオロジー 研究論文−180−Synthesiology Vol.3 No.3 pp.180-189(Aug. 2010)1 はじめに映像酔いとは、一般に映像シーンの動きが比較的頻繁に含まれる映像を視聴した時に、以下に挙げる体調不良の症状を発症する状態をいう[1]。すなわち、めまいや発汗、眠気、唾液の増加、顔面蒼白、胃部不快感、吐き気、嘔吐など、運動酔い(いわゆる乗り物酔い)のような症状である。近年の映像メディア技術の革新的な発展は映像利用の可能性を飛躍的に増加させる一方で、同時に、この映像酔いに遭遇する機会をも増加させる可能性があり、早急な対策が必要である。運動酔いについては、身体の動きに関する視覚情報や前庭情報など複数の感覚情報の間の関係が、身体の動きによって生じる通常の状況と異なる場合に、これを異変ととらえて症状が現れるとする考え方(感覚再配置説(Sensory rearrangement theory))[2]が有力である。これと同じ考え方が映像酔いについてもできる。例えば、椅子に座って身体が静止している時に、身体が空間を移動しているかのような映像による動きを与えられると、酔いを生じることがある。身体が移動しているという視覚情報が与えられる一方で、ふだんはこれに伴う加速度によって生じる前庭感覚情報や、椅子との接触面での圧力変化に関する触感覚情報などが伴わないことが、酔いの原因と考えられる。近年の映像メディア技術の発達によって、映像制作にコンピュータ技術が導入され、小型で高精細なデジタルビデオカメラが普及することで、これまでにないダイナミックで迫力ある映像シーンの表現が可能となった。また大画面・高精細ディスプレイが家庭にも急速に普及し、ダイナミックでリアルな映像シーンを視聴できるようになってきた。こうした映像シーンの動きは身体運動情報として処理される可能性がある。したがって何も対策をとらなければ映像酔いを発症する可能性が増加すると考えられるため、早急な対氏家 弘裕映像制作者が、自ら制作した映像によって生じ得る映像酔いの程度について、その時間推移を確認できる映像酔い評価システムの開発を行った。映像技術の進展に伴い映像酔いに対する社会的認知が広まりつつあり、娯楽や教育、医療など映像の有効な利用に対する可能性を損なわないために、映像制作者に理解を求めるためのツールとして本システムは有効である。この開発には、映像酔いの基礎特性を基盤として、これを一般の映像評価に適用するために、映像解析、映像制作、生体影響計測に関する研究協力が不可欠であった。映像の安心な利用を可能にする映像酔い評価システムの開発− 人間特性研究/映像分析技術/映像制作技術の融合による安心・快適な映像を提供するための環境づくり −Hiroyasu UjikeDeveloping an evaluation system of visually induced motion sickness for safe usage of moving images- Fermentation of a social understanding to supply secure and comfortable images through integration of researches on human characteristics, image analysis technique and image production technique -We have developed an evaluation system of moving images by estimating temporal variations of discomfort levels of visually induced motion sickness (VIMS) caused by the images. The system is useful for making image producers understand the importance of reducing the possibility of VIMS. This activity will provide an environment that allows people to use moving images at ease in a variety of fields, such as entertainment, education and medical services. The system was developed by the collaborative research of image analysis, image producing and measurements of biomedical effects to apply the basic characteristics of VIMS for evaluating general images.キーワード:映像の生体安全性、映像酔い、生体影響、映像評価、映像ガイドラインKeywords:Image Safety, visually induced motion sickness, biomedical effects, moving image evaluation, moving image guideline産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門 〒305-8566 つくば市東1-1-1 中央第6Human Technology Research Institute, AIST Tsukuba Central 6, 1-1-1 Higashi, Tsukuba 305-8566, Japan Original manuscript received January 5, 2010, Revisions received June 1, 2010, Accepted June 2, 2010
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