Vol.3 No.3 2010
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研究論文:ものづくり産業の国際競争を支援する電気標準(中村ほか)−214−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)合性の確保された標準として確立し、さらに国内校正事業者をとおして、国内産業の生産現場の隅々にまで、計量標準を広く供給・浸透させる体制作りを急いでいる。キャパシタンスやインダクタンス、交流抵抗といったインピーダンスの各量は、数ある電気量の中でも最も基本的な物理量であるが、電子機器の高機能化、自動車の電子化や性能向上に伴って、ここ十数年の間に、特にコンデンサーについて、より高精度な標準を望む声が大きくなってきた。そこで、コンデンサーの標準、すなわちキャパシタンス標準について、それまでの標準設定・実現方法をゼロから見直し、新たなキャパシタンス標準の確立と計量トレーサビリティ体系の構築を目指して研究開発を行った。キャパシタンス標準をはじめ、産総研が開発・確立した世界トップレベルの各種電気標準を国内の電子部品メーカーに迅速に供給することよって、電子部品の一つ一つに計量トレーサビリティの保証を与え、これをとおして、国内電子部品産業はもとより、電子部品の供給先である電機・通信・自動車産業などの我が国基幹産業のグローバル競争や技術開発競争を知的基盤の面から強力にサポートし、国際競争力強化に貢献することを目指している。2 シナリオ2.1 国家標準の開発目標の設定「新たに開発するキャパシタンスの国家標準はどの程度の不確かさ(精度)を目指すべきか」、また、「校正対象としてはどのような二次標準器を想定すべきか」など、新たな国家標準の開発に当たっては、まず、開発の目標を設定する必要がある。開発の当時、国家標準(一次標準器)から値付けする二次標準器には空気キャパシターあるいはマイカキャパシターと呼ばれる標準キャパシターが主に用いられていた。これは温度係数が小さいかまたは小型で扱いやすいことが理由で、企業の標準室で一般に広く使用されていたものであるが、期待できる不確かさは1 ppm(1 µF/F)レベルであった。より高精度なキャパシタンス標準を要望する電子部品メーカーあるいはキャパシタンスの計測器メーカーは、空気キャパシターに比べさらに高精度・高安定である溶融石英型キャパシターを所有し、このタイプのキャパシターに対して標準の供給を求めていた。溶融石英型キャパシターであれば、0.1 ppmレベルの不確かさが期待できる。そこで、校正対象として溶融石英型キャパシターを想定し、それを校正するための国家標準(キャパシタンス標準)を開発することにした。開発したキャパシタンス標準は他国の国立標準研究所(NMI:National Metrology Institute)における同種の標準と比較され、標準の同等性が確認されることによって、国際整合性が確保できる。世界トップレベルのキャパシタンス標準を実現する主要国のNMI、具体的にはNIST(米)・PTB(独)・NMIA(豪)・LNE(仏)においてそれぞれ実現されているキャパシタンス標準の不確かさを調査した結果、いずれも標準不確かさ0.1 ppm以下で標準を確立していることが分かった[2]-[5]。校正対象(二次標準器)として、高精度・高安定な溶融石英型キャパシターを想定する意味においても、また国内産業のグローバル競争を支援する意味からも、世界トップレベルの標準の実現は必須であると判断した。そこで、開発目標として「標準不確かさ0.1 ppm以下の国家標準の確立」を設定した。2.2 産業現場までの標準供給シナリオメーカーの生産現場までキャパシタンス標準を供給し、計量トレーサビリティ体系を構築するには、民間の校正事業者の役割が必須だと考える。現在、世界の多くのNMIでは産業界の求める標準を数多く開発・整備し、広い範囲にわたって校正サービスを提供している。(例えば、電気標準を例にみても、NIST、PTBは共に約330種類、香港SCLは約200種類の校正サービスを提供している[6]。)しかし、産総研においても同様に産業界ニーズに見合うすべての範囲の標準を整備し供給することが最善の策かといえば、必ずしもそうではないと思われる。我が国には、他国と比べて能力の高い校正事業者や精密機器製造事業者が数多く存在する。計量トレーサビリティ体系の構築において、これらの国内事業者の協力を得て、その校正実施能力を最大限に活用することができれば、産業現場の隅々まで迅速でかつ安定な標準供給が実現でき、またそれと同時に、産総研の業務のスリム化やリソースの効率的運用が可能になると思われる。そこで、キャパシタンス標準の供給においては、図1のような標準供給体制を想定した。産総研キャパシタンス国家標準参照標準(技能試験用)・参照標準の提供・技術移転校正事業者産業現場電子部品(コンデンサー)部品提供電気機器・通信機器・自動車産業(ものづくり産業)図1 キャパシタンス標準の供給体制シナリオ
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