Vol.3 No.3 2010
32/84
研究論文:複雑システムの信頼性を向上させる開発手法(加藤ほか)−208−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)する仕様を基にモデルを作成する。構成要素の仕様およびインタフェース仕様は自然言語で記述される場合が多い。そのため、抽出した仕様を人手でモデル化する場合が多く、モデルに誤りが混入しやすい。本課題はモデル検査全般における課題でもある。課題の三つ目も本開発手法におけるモデル検査の課題である。モデル検査においては、モデル検査ツールの表現形式に従い、協調動作が満たすべき性質を基に検査式を作成する。モデル検査における検査式は、時相論理用語36と呼ばれる時相演算子用語37(G:常に、F:いずれ)およびパス限量子用語38(A:すべてのパスで、E:あるパスで)、論理演算子用語39(OR、AND、NOT)を組み合わせて表現される。しかし、時相論理を扱うには専門的な知識が必要であることから、協調動作が満たすべき性質を基に検査式を作成するハードルは高い。本課題についてもモデル検査全般における課題である。7 まとめと今後の展望本稿では、システムの仕様を、システムを構成する要素間による協調動作が整合している構成要素の仕様および構成要素間のインタフェース仕様に分解する開発手法を示した。アーキテクチャ設計手法およびモデル検査を融合するブリッジ技術を見出し、ブリッジ技術の実現例を示した。また、産業用ロボットに対する本開発手法の適用結果を示した。適用結果から、産業界の複雑システムに対し本開発手法が有効であることを示した。本開発手法については、筆者らが所属する慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科[28](以降、慶應SDM研究科という)をとおして、産業界に広めることを検討している。慶應SDM研究科は文理を問わずさまざまなフィールドの社会人が多く学ぶ研究科である。慶應SDM研究科には、航空・宇宙、情報システム、ロボット、電子機器などの製品開発の第一線で活躍するエンジニアが在籍している。慶應SDM研究科において、それらのエンジニアに対して本開発手法を展開することで、本開発手法を広めて産業界にて貢献することができると考える。ただし、本開発手法には改善の余地もある。今後、本稿で挙げた課題のうち、課題1の解決に取り組む。そして、さらに品質の高い開発手法の実現を目指す。用語説明システム:定義された目的を実現するために、相互に作用する要素を組み合わせた集合体。電子機器システム:取り扱う情報をデジタル処理する複数のプロセッサが搭載されたシステム(例:携帯電話など)。用語1:用語2:情報システム:企業活動においてデータ処理を行う複数の計算機がネットワークで接続されたシステム(例:業務システムなど)。system of systems:目的の異なる複数のシステムが結びついた複合システム。協調動作:システムの構成要素における処理がインタフェースを介し、他構成要素の処理と連携すること。協調動作の整合:システム仕様に対し構成要素による協調動作が正しく行われること。システムエンジニアリング:与えられた費用、期間内で、必要な品質を満たすシステムを実現する技術体系。技術分野に依存しないノウハウ・ルールとして標準化されている。アーキテクチャ設計手法:システムの構成要素に対し、システムに要求される機能・性能を配分し、構成要素の仕様および構成要素間のインタフェースを明確化する設計技術。モデル検査:システムの状態遷移を表すモデルに対し、モデルが実現しうるすべての状態遷移において、与えられた性質が成り立つか否かを、計算機により網羅的に確認する検証技術。形式手法:数理論理学に基づく言語を用いて仕様を表現し、仕様が正しいことを保証する開発および検証技術。IEC 61508:プロセス産業、機械製造業、交通輸送、医療機器などの機能安全を電気/電子/プログラム可能な電子系をもって構成する場合の遵守事項を定めた国際規格。構造化分析・設計手法:実現すべきシステムのデータの流れに着目し、システムを構成要素に分解する設計技術。ISO 15288:システムエンジニアリング標準のひとつ。システムの概念検討から利用および廃棄という、システムライフサイクルプロセスの全般を適用範囲とし、各プロセスにおける作業および手順が規定されている。ANSI/EIA 632:システムエンジニアリング標準の一つ。システムの概念検討から利用移行というシステムライフサイクルプロセスの広範を適用範囲とし、各プロセスにおける作業および手順が規定されている。IEEE 1220:システムエンジニアリング標準の一つ。システムの要求分析・定義から試験というシステムライフサイクルプロセスを適用範囲とし、各プロセスにおける作業および手順が規定されている。テスト手法:実プロダクトを用いて、テストケースに対する実プロダクトの動作を確認する検証技術。シミュレーション手法:検証対象およびその周辺環境を計算機上にモデルとして模擬し、テストケースに対する検証対象モデルの動作を確認する検証技術。用語3:用語4:用語5:用語6:用語7:用語8:用語9:用語10:用語11:用語12:用語13:用語14:用語15:用語16:用語17:
元のページ