Vol.3 No.3 2010
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研究論文:複雑システムの信頼性を向上させる開発手法(加藤ほか)−203−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)次に、トレーサビリティマトリクスを基に、システム仕様から、構成要素における協調動作が満たすべき性質を抽出する。その理由は、トレーサビリティマトリクスを用いて抽出した構成要素における協調動作は、協調動作することにより実現するシステムの仕様を満足する必要があるためである。図7の場合、構成要素A仕様 5.1 XA機能および構成要素B仕様 5.1 XB機能における協調動作は、システム仕様4.1 X機能の性質を満たす必要がある。そして、抽出した協調動作に関する仕様および協調動作が満たすべき性質を基に、協調動作として評価すべき観点を設定する。協調動作に関する評価観点は、以下に大別することができる。①構成要素間におけるメッセージおよびメッセージに関する処理に抜けや齟齬が無いこと②構成要素間におけるメッセージおよびメッセージに関する処理のタイミングが正しいこと識別した評価観点に応じて、適用するモデル検査ツールを選定する。モデル検査ツールの代表的な種類として、有限オートマトン[17]用語25および有限オートマトンを拡張した時間オートマトン[18]用語26がある。評価観点①を評価する場合、有限オートマトンに対応するモデル検査ツールを選定する。有限オートマトンの代表的なモデル検査ツールとしてSPIN[19]用語27がある。評価観点②のようにタイミングなどの時間的な制約を評価する場合、時間オートマトンに対応するモデル検査ツールを選定する。時間オートマトンは有限オートマトンを拡張したオートマトンである。時間オートマトンに対応するモデル検査ツールは評価観点①についても評価することができる。時間オートマトンの代表的なモデル検査ツールとしてUPPAAL[20]用語28がある。また、それぞれの構成要素は並行して動作する。したがって、並行システムをモデル化することが可能なモデル検査ツールを選定する必要がある。前述したSPINおよびUPPAALは並行システムをモデル化することができる。5 産業事例への適用近年、産業用ロボット[21]用語29は、機能の高度化が進んでいる。また、産業用ロボットの多くは、対象とする作業の性格上、機械的出力が大きく、運用者に対する安全性を考慮する必要がある。産業用ロボットはこの研究における開発手法の適用に適するシステムの一つである。本稿執筆現在、私達は産業用ロボットメーカーと共同で、不定形な剛体を運搬する産業用ロボットシステムを開発している。この研究における産業事例として不定形剛体運搬ロボットシステムを選定し、本開発手法を適用する。以下に、不定形剛体運搬ロボットシステムを説明し、本開発手法を適用した結果を述べる。5.1 不定形剛体運搬ロボットシステム不定形剛体運搬ロボットシステムとは、形状・寸法が一定ではない重量のある剛体の把持、運搬、据置を行う産業用ロボットシステムである。不定形剛体運搬ロボットシステムに関する開発要求の特徴は、不定形剛体の把持および据置作業に対し、次に示す強い自律性が求められる点である。不定形剛体を把持する領域は限定されているものの、剛体の形状・寸法、剛体を把持する位置、剛体の姿勢は不定である。システムは、剛体を把持するにあたり、剛体の形状・寸法、位置、姿勢を正確に判断する必要がある。また、不定形剛体を据え置く領域は限定されているものの、その領域の中で剛体を据え置く位置は不定である。システムは、剛体を据え置くにあたり、剛体が存在しない位置、もしくは剛体が敷き詰められた領域において、最も標高が低い位置を正確に判断する必要がある。不定形剛体運搬ロボットシステムを開発するにあたり、まず、開発要求を基にシステムの要求分析を実施した。システムの要求分析を実施することでシステム仕様を確定した。確定したシステム仕様を入力として本開発手法を適用した。5.2 この研究における開発手法の適用本節では、4章で述べたアーキテクチャ設計、ブリッジ技術、モデル検査の技術ごとに、この研究における開発手法の具体的な適用内容を述べる。5.2.1 アーキテクチャ設計不定形剛体運搬ロボットシステムのシステム仕様を入力として、アーキテクチャ設計を実施した。アーキテクチャ設計の結果、不定形剛体運搬ロボットシステムの仕様を測定サブシステム、ロボットサブシステム、統合制御サブシステムの仕様およびサブシステム用語30間のインタフェース仕様に分解した。図10に不定形剛体運搬ロボットシステムのアーキテクチャ設計結果を示す。アーキテクチャ設計の際、COTS(Commercial Off The Shelf)用語31製品および既存の技術を最大限に活用できるように、あらかじめサブシステムを構成するコンポーネント用語32を想定し、各サブシステムを設計した。測定サブシステムは、3次元形状を測定するレーザスキャナおよびレーザスキャナ上下動機構、それら二つを制御する測定制御計算機で構成される。測定サブシステムは、剛体を把持する際の剛体の形状・寸法、位置、姿勢を測定する。また、剛体を据え置く際の据置領域の凹凸状況を測定する。
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