Vol.3 No.3 2010
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研究論文:複雑システムの信頼性を向上させる開発手法(加藤ほか)−198−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)により、システムの信頼性が低下する可能性がある。システムの構成要素による協調動作に対しては、システム開発の上流における確実な設計および確認が必要であるものの、これらを実現する開発手法は提案されていない。理由の一つ目は、システムにおける信頼性という観点において、システムの構成要素による協調動作が着目されることがなかったためである。理由の二つ目は、システム開発の上流において、システムの品質を作りこむこと自体が比較的新しい概念であるためである。そこで、私達は、システムの仕様を構成要素の仕様および構成要素間のインタフェース仕様に分解し、それらの協調動作が整合していることをシステム設計段階において確認する開発手法を研究している[5][6]。協調動作が整合している仕様を基にして構成要素の開発を進めることで、複雑システムにおける信頼性の向上が期待できる。本開発手法は、システムエンジニアリング[1]用語7におけるアーキテクチャ設計手法用語8およびモデル検査[7]用語9を融合することで構築される。システムエンジニアリングとは、与えられた費用、期間内で、必要な品質を満たすシステムを実現する技術体系である。システムエンジニアリングは主に軍事、航空・宇宙分野において研究が始まり、システム開発のBest Practiceを蓄積・反映しながら発展してきた。システムエンジニアリング・プロセスは、技術分野に依存しないノウハウ・ルールとして標準化されている[8]-[10]。システムエンジニアリング・プロセスの一部に、アーキテクチャ設計手法が規定されている。アーキテクチャ設計とは、システムの構成要素に対し、システムに要求される機能・性能を配分し、構成要素の仕様および構成要素間のインタフェースを明確化する技術である。標準に規定されるプロセスに従い、アーキテクチャ設計を実施することで、複雑システムを円滑かつ確実に構成要素に分解することができる。本稿では、標準化されたアーキテクチャ設計手法を単にアーキテクチャ設計手法と呼ぶことにする。モデル検査とは、システムの状態遷移を表すモデルに対し、モデルが実現しうるすべての状態遷移において与えられた性質が成り立つか否かを計算機により網羅的に検証する技術である。モデル検査は形式手法[11]用語10の一つに位置付けられる。モデル検査は検証技術として確立され、近年、ソフトウェア開発において普及が進んでいる。また、機能安全規格であるIEC61508[12]用語11において、開発における形式手法の適用が推奨されたことにより、システムの高信頼化を実現する技術としても注目されている。構成要素間の協調動作に関する仕様に対してモデル検査を適用し、協調動作が満たすべき性質が成り立つかどうかをしらみつぶしに確認する。それにより、複雑な状態で発生する協調動作の不整合を検出することができる。アーキテクチャ設計手法は、システム工学に基づく、システム設計領域におけるBest Practiceを結集した体系的知識である。モデル検査は、数理論理学および計算機科学に基づいた、システム検証領域における信頼性の向上に貢献する研究成果である。この研究では、複雑システムの高信頼化を目指し、アーキテクチャ設計手法とモデル検査を融合し、それぞれの特徴を活かした開発手法を創造する。私達の研究活動は、社会・経済のニーズへ対応するために異なる分野の知識を幅広く選択し、それらを融合する第2種基礎研究に値する。本稿では、システムの仕様を協調動作が整合している構成要素の仕様および構成要素間のインタフェース仕様に分解する開発手法を述べ、また、本開発手法の研究プロセスについても述べる。構成は次のとおりである。2章は研究目標および研究シナリオ、3章はアーキテクチャ設計手法およびモデル検査について述べる。4章はアーキテクチャ設計手法およびモデル検査の融合に関するプロセスを述べ、5章では産業事例への適用結果を述べる。6章で本開発手法の有効性および課題を考察し、7章において本稿のまとめと今後の展望を述べる。2 研究目標および研究シナリオこの研究の目標は、システムの仕様を協調動作が整合している構成要素の仕様および構成要素間のインタフェース仕様に分解する、特定の技術システムに特化しない開発手法の確立である。図1に研究シナリオを示す。研究目標を達成するための研究シナリオとして、システム開発に関する技術領域から、既に有効性が認められている技術を選択する。理由は、システム開発において有効性が認められている技術を活用することで、高品質な開発手法を効率良く確立することができるためである。そして、選択した技術について、それぞれの特徴を活かして融合することで、開発手法を確立する。理由は、各領域の技術を融合することで新規技術が生まれ、新たな研究領域の創出が期待でき図 1 研究シナリオ 技術技術技術研究目標の達成産業界の実例に対する開発手法の適用特徴を活かした技術の融合有効性が認められている技術の選択システム開発に関する技術領域研究のフロー産業界の実例本研究における開発手法の確立
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