Vol.3 No.3 2010
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研究論文:戦略的システムデザインによる最適化設計法の提案(福田ほか)−196−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)ダーのシステムだけでなく、さらに太陽光発電を加えた三つ以上のステークホルダーによる複合システムなど、より複雑なシステムでの戦略的システムデザインによる最適化について検討していきたい。謝辞この研究は、慶應義塾大学グローバルCOEプログラム「環境共生・安全システムデザインの先導拠点」の一環として実施された。排熱の利用に関してディスカッションを頂戴した慶應義塾大学大学院佐藤春樹教授に謝意を表する。脚注注1)国内総発電量の25 %:IT機器によるエネルギー消費量の見通し, IT政策ロードマップ, 31P, 2008.6.11(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)注2)電気事業者の排出係数:平成18年度の電気事業者別排出係数の公表について, 2008.9.27(環境省)注3)東京と札幌比較の気温差:気象統計情報, 2008(気象庁)注4)キャッピング:ラック空調システム,特許公開, 2009-257730, 2009.11.5(株式会社NTTファシリティーズ)注5)ハウスの暖房熱量:温室暖房燃料消費試算ツール(試用版Ver.0.90), 2008.2.25((独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 高収益施設野菜研究チーム)注6)環境税率:環境税の具体案, 2005.10.25(環境省)執筆者略歴福田 次郎(ふくだ じろう)三菱総合研究所戦略コンサルティング室主任研究員。早稲田大学理工学研究科機械工学修士課程修了。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科博士課程在籍。1989年、三菱総合研究所入所後、課税制度、技術開発計画、交通システム、医療情報システムなど、政府官公庁を対象とした社会システムのコンサルティングを行う。近年では、インターネットビジネスおよびインターネット・データセンターのコンサルティングを行い、日本データセンター協会の活動を支援している。本論文における、戦略的システムデザインの考え方を提唱し、シミュレーションによる試算を行った。日比谷 孟俊(ひびや たけとし)NEC基礎研究所主席研究員、東京工業大学客員教授、首都大学東京教授を経て、現在、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。工学博士。エレクトロニクス材料の開発、結晶成長、高温融体の熱物性測定、ロケットや航空機を利用した無重力下での材料プロセス研究に従事。本論文では、データセンターとハウス栽培との複合化を、システムデザイン・マネジメント学の観点から考察を行った。査読者との議論議論1 システムの階層性質問(内藤 耕:産業技術総合研究所サービス工学研究センター)単一システム、スーパーシステム、社会システム、ステークホルダーといった用語が使われていますが、それぞれのシステムがどのように関係しているのか説明をお願いいたします。回答(福田 次郎)システムが個人レベル、組織レベル、社会レベル、地球レベルといったさまざまな大きさを持ち、階層的な重層構造を持ち、相互に影響しあっています。本論文ではまず単一のシステムの外に、さまざまなステークホルダーの存在を指摘することを意図しています。ステークホルダーの規模や属性およびその構造が、システムに与える影響およびその環境下での最適解については、より深く追求すべきテーマとして、今後の研究としています。本論文では、最も単純な組み合わせである二つのステークホルダーおよび外部環境としての環境税賦課の環境下での最適化について述べることにします。議論2 データセンターの事例質問(矢部 彰:産業技術総合研究所)戦略的システムデザインという概念を提唱し、物理システムと価値システムという観点で複数システムの組み合わせを議論している点は、大変独創的な観点であり、例えば、焼酎製造工程での焼酎絞りかすの肥料応用と廃棄物処理の両立など、バイオマス利用と廃棄物処理の組み合わせなどのこの概念に相当する多くの実例が思い浮かびますが、この概念をデータセンターの排熱の再利用に適用することは現実的でないと判断されます。なぜならば、低温排熱の有効利用は、発電所排熱の有効利用の問題として長年議論してきており、多くの物理システムと価値システムの組み合わせを想定した議論を行ってきましたが、未だに経済性の成り立つ応用例を提案する段階に至っていないからです。とても独創的な有用な概念を提唱されているので、できることならば、実現している応用例の分析という観点で、この考え方を提唱されるのがより説得力を持つと思われますが、どのようにお考えでしょうか。回答(福田 次郎)近年のデータセンターでは、外気を直接取り込んでサーバーを冷却し、排気として熱を建物外に排出する外気冷房を、ヒートポンプによる冷却と併用する事例が出ております。こうした方法で、データセンターの排熱から温室栽培に必要な温度を確保することは可能と考えます。既に、物理システムとして、国内のデータセンターで、排熱による温室の栽培成功の事例も出てきています(IDCフロンティア:プレスリリース IDCフロンティアのアジアン・フロンティア 実証実験で外気空調の効果を確認 空調消費電力削減効果は最大4割弱、廃熱の農業活用の有効性も確認, 2010.3.29)。また、夏場の排熱についてはすべて未利用の前提で試算を行っていますが、冬場のエネルギーの再利用だけでも経済的に十分な価値があるという結果になりました。これは、今後導入が予想される環境税を考慮に入れたことも、排熱利用の価値を高める結果となった要因の一つと考えられます。本論文では、物理システムと価値システムの二層の捉え方以外に、データセンター事業者と農家という異なるステークホルダーも含めた戦略的視点に立つことで、単一のステークホルダーでは最適化できないものが、物理的にも価値的(経済的)にも成立することを目的にしており、そうした観点から、従来の単一の工場事業主内のエネルギーの再利用事例ではなく、データセンターを対象に取り上げました。コメント(内藤 耕)データセンターを事例に、システムの相互関係から最適化するモデルを提案していますが、今回の論文ではデータセンターの排熱利用が一つの事例であることを明確にし、この論文で提案している内容の汎用性を強調することが望ましいと思います。回答(福田 次郎)「戦略的システムデザイン」の基本的な見方は、ご指摘のような排熱の再利用だけでなく、スマートグリッドのように、異なる目的を有するステークホルダー間でのエネルギーマネジメント一般に適用できるモデルに拡大できると考え、そのように修正します。
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