Vol.3 No.3 2010
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研究論文:戦略的システムデザインによる最適化設計法の提案(福田ほか)−195−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)年間の電力コストEC=693,807千円のほか、年間の環境税TC=14,454千円が新たにコストとなる。最も効果的な、キャッピングによる対策を行った場合、年間消費電力量は54,697 MWhとなり、年間37,437千円の電力コスト削減(ΔEC2)、環境税で年間780千円の削減(ΔTC2)が得られる(表4)。しかし、CO2の削減のための設備投資金額ICの許容上限は年間38,217千円未満でなければならない。1ラックあたりの投資金額は224千円(償却期間5年)以下となり、キャッピングに必要な一般的費用と比較すると、かなり困難な数字である。仮に1ラックあたり200千円でキャッピングが実現したとしても、データセンター全体のコスト削減金額は年間4,217千円に過ぎない。また、課税以前よりも利益を拡大できる(2)の条件を達成することは、ほぼ不可能とみられる。次に、複合データセンターとして、同じ1,000ラック、6 kW/rackのデータセンターを宇都宮に設け、その排熱を利用する88,100 m2のハウスを想定する。データセンターの年間消費電力量は57,417 MWhとなり、年間の電力コストECx=689,006千円、年間の環境税TCx=14,354千円がデータセンター事業者の負担となる。一方、排熱の再利用で、ハウス暖房の年間燃料消費量1,709 kLおよび、年間燃料コストECy=241,390千円が0となり、年間4,256 tのCO2排出と環境税TCy=1,402千円が削減可能できる。この削減効果に見合う年間の設備投資金額ICx+ICyの上限は191,135千円(1ラックあたり1,124千円)未満であり、データセンター単独の場合と比較してコスト的に約5倍の余裕がある。年間の設備投資を88,100千円(1ラックあたり1,032千円)と仮定すると、環境税課税前と比較して、データセンター事業者は年間78,646千円、ハウス栽培農家は年間8,634千円の利益増となる。このように、複合データセンターでは、環境面でも高いCO2削減効果を得つつ、事業者にとっても収益効果の高いシステムを設計できることが分かった。5 まとめ戦略的システムデザインは、異なるステークホルダーのシステムを物理空間および心理空間(価値)のそれぞれにおいて統合的にデザインすることである。その例として、CO2の削減を目的としたデータセンターの設計を検討した結果、以下のことが明らかとなった。(1)従来のデザインアプローチによるデータセンター単独の効率化設計では、物理的なCO2の排出削減効果は限定的であり、価値面でも環境改善のために投資可能な上限金額が小さく、設備投資が困難である。また、環境税の課税前と同等の利益確保はほぼ不可能である。(2)総合物理システムデザイン(Total Physical System Design)の考えを採用し、ハウス栽培においてデータセンターの排熱を利用する複合システムの場合には、全体のCO2排出削減効果が17.9 %となり、より大きな環境改善効果ができる可能性を示した。(3)さらに、総合価値システムデザイン(Total Value System Design)による価値システムとして、ハウス栽培農家からデータセンター事業者に対し排熱利用の調整金を支払う契約システムを導入することで、環境税の課税後でも十分な金額の設備投資を確保することができ、双方とも環境税の課税以前よりも利益を拡大し価値を高めることができる可能性を示した。(4)データセンターを例に、単独のステークホルダーを対象とした従来の戦術的なシステムデザインに対し、複数のステークホルダーを対象とする戦略的システムデザインによって、物理的性能および費用対効果においてより効率的なシステムをデザインできる可能性を示した。こうした、物理システムと価値の全体バランスを取りつつ、双方のステークホルダーを満足させて全体の最適化をはかるという戦略的システムデザインの基本的な考え方は、データセンターと農業の関係に限らず、工場や発電所の排熱を再利用する地域冷暖房の検討にも適用できる。また、例えば各家庭に駐車した電気自動車の電池を、社会全体の電力網の蓄電池として利用するスマートグリッドのような、今後の社会におけるさまざまな異なる目的を有するステークホルダー間での新しい複合システムの実現の検討に適用できるものと考える。今後は、データセンターと農業という二つのステークホル表4 環境対策投資と収益改善効果iDCキャッピングiDC+ハウス栽培データセンターのエネルギーコスト千円/年689,009656,370データセンターの環境税千円/年14,35413,674ハウス栽培のエネルギーコスト(排熱利用前)千円/年189,734ハウス栽培の環境税(排熱利用前)千円/年1,402設備投資によるエネルギーコスト削減千円/年189,73437,437設備投資による環境税の削減千円/年1,402780CO2の削減量t-CO24,2561,058CO2の削減効果%-17.9 %-5.4 %許容可能な設備投資の上限額千円/年191,13538,2171ラックあたり千円/rack1,124224利益増となる設備投資の上限額千円/年175,37923,7631ラックあたり千円/rack1,032140モデルケースでの試算データセンターの設備投資金額千円/年80,00034,000ハウス栽培農家の設備投資金額千円/年8,100環境税課税後のデータセンターコスト削減千円/年93,0004,217環境税課税後のハウス栽培コスト削減千円/年10,036課税前との利益増減(データセンター)千円/年78,646-10,237課税前との利益増減(ハウス栽培)千円/年8,634データセンターとハウス栽培との調整金額千円173,000東京宇都宮データセンターの立地------

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