Vol.3 No.3 2010
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研究論文:戦略的システムデザインによる最適化設計法の提案(福田ほか)−191−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)最大収容数1,000ラック(実稼働率85 %)、1ラックあたりの最大供給電力6 kW(平均4.2 kW/rack)のデータセンターを想定する。データセンター全体の消費電力のシミュレーションを行い、公表された電気事業者の排出係数注2をかけるとCO2の排出量は表2のようになる。データセンターにおける空調機器の電力消費を考慮し、エネルギー効率向上に資する有効な手段の一つとして、寒冷地にデータセンターを建設して、空調効率を向上させることが挙げられる。例えば、データセンターが集中している東京と札幌とを比較すると、年間5~10 ℃程度の気温差があり注3、札幌などの寒冷地にデータセンターを設けることにより、空調機器の消費電力を約8 %削減することが可能と予想できる(表2)。逆に温暖な那覇では、8 %程度、空調機器の消費電力が増加する。しかし、データセンター全体の消費電力から見ると空調機器の消費電力は3割程度であるため、東京と札幌を比べても、およそ2 %前後の削減効果しか期待できない(表2)。さらに空調効率向上の方策として、ラックをパネルで囲ってサーバーの排出熱と空調機器の冷気を混合させない「キャッピング」という空調方式がある(図2)注4。これにより、空調機器の消費電力を約20 %削減することができるが、データセンター全体の消費電力から見ると、約5 %程度の削減効果に留まるとみられる(表2)。このように、データセンター単独でのエネルギー消費の効率化には限界があり、大幅なCO2削減を図るには、より画期的な技術革新か、新たなデザインアプローチによる効率化が必要である。3 戦略的システムデザインの提案3.1 物理システムと価値システムそこで、単独のシステムによる最適化の概念の枠を越えて、「戦略的システムデザイン」の発想による新たなデザインアプローチを提案する。戦略的システムデザインの概念について図3に示す。従来のシステムデザインでは、単一のシステムについて、主に物理的性能の観点から評価と最適化がなされてきた。しかし、システムにはその保有者であるステークホルダーがあり、システムの評価はそのステークホルダーにとっての価値で決まる。価値はステークホルダーの心理的な価値観に依存し、貨幣尺度に必ずしも限定されないが、貨幣尺度を用いることで定量化と一般化が可能となる。したがってシステムは、物理的空間に存在する物理システムと、ステークホルダーの心理的空間に存在する価値システムとの二つの空間に存在していると言える。データセンターの場合、建物、電源、空調機器、ラックなどで構成される「物理システム」と、それらが生み出す売上という事業者にとっての「価値システム」からなる。このとき、物理システムの最適化と、価値システムの最適化とは必ずしも一致しない。データセンターの場合、物理システムの最適化とは消費電力を最小にすることであるが、価値システムの最適化とはコストを最小にして利益を最大化することである。消費電力の最小化と、コストの最小化は同じ傾向にあるが、必ずしも一致しない場合がある。例えば、高効率な設備導入は消費電力を削減するが、それが高額だと設備費用の増加によりコストは増大する。価値が減少すると、たとえ高効率であっても事業者は設備利用者通信事業者データセンター事業者電気事業者発電所電源無停電装置サーバー非常用発電機ネットワークサービスパソコン排熱空調機器図1 データセンターのエネルギーフロー表1 データセンターのエネルギー消費構成表2 データセンターの立地とCO2の排出量図2 キャッピングによる空調機器の効率化の一例サーバーの消費電力空調機器の消費電力電源設備、無停電電源照明、その他 2 %13 %27 %58 %那覇札幌東京東京アイルキャッピング札幌アイルキャッピング11,51412,47916,81014,39315,59973.8 %80.0 %107.8 %92.3 %100.0 %53,73354,69759,02956,61157,81792.9 %94.6 %102.1 %97.9 %100.0 %1.601.631.761.691.7264465670867969492.8 %94.5 %102.0 %97.8 %100.0 %0.4790.3390.9340.4790.33925,73818,54255,13327,11719,600131.3 %94.6 %281.3 %138.4 %100.0 %※1 PUE:電力使用効率 PUE=データセンター全体の消費電力/サーバーの消費電力 ※2 環境省資料による平成18年度数値(那覇は平成19年度数値)点線下段は東京を100 %とした場合の比較CO2の排出量(t/年)CO2の排出係数※2kg-CO2/kWh電力コスト(百万円/年)PUE※1データセンター全体の消費電力(MWh/年)空調機器消費電力(MWh/年)パネルによりサーバーの排熱と冷気の混合を防ぐ空調機器空調機器サーバーサーバー
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