Vol.3 No.3 2010
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研究論文:映像の安心な利用を可能にする映像酔い評価システムの開発(氏家)−186−Synthesiology Vol.3 No.3(2010)要素を含んだ映像については、映像制作の専門家である映画プロデューサーの協力を得て、制作を依頼した。このような映像制作には、複雑な視覚運動を含んだ単純なコンテンツのCG映像や、研究者自らが撮影した実写映像などを用いることも可能であるが、これらを用いた場合には必ずしも映像制作の専門家に受け入れられないことがある。例えば、映像酔いを生じる基本的な要因が含まれている映像であったとしても、専門家の手にかからない映像には専門家が制作する映像効果や手法が必ずしも盛り込まれないために、映像制作者に対する説得力を低下させる要因となり得る。このあたりは、論理的に説明することが必ずしも容易ではなく、また技術的議論の枠を超えた話ではあるが、映像産業界関係者に映像の生体安全性についての理解と協力を求める上では重要な点である。制作する映像の条件として、映像酔いを生じる基本的な要因が含まれていることに加えて、実際に評価対象として想定され得る実写映像であることを条件とした。前者の観点では、映像酔いの基礎特性に関する知見にもとづいて、カメラの基本運動であるパン、チルト、ロール、ズームの運動速度の影響を検討するために、これらを映像中に含めることを試みた。ただし、後者の観点から実写映像としており、その撮影現場ではカメラの動きの速度を計測しにくいため、映画プロデューサーとの協議により、以下の手順を用いた。まず、カメラの基本運動それぞれに対して、5段階の速度を設定する。具体的には、パン、チルト、ロールの場合、微速7.5 deg/s、低速15 deg/s、中速30 deg/s、高速60 deg/s、超高速80 deg/sとし、ズームの場合、フレーム間の拡大率(および縮小率)として、微速1.15(0.86)、低速1.30(0.77)、中速1.50(0.67)、高速1.75(0.57)、超高速2.00(0.50)とした。次に、特殊撮影(SFX)により、これらの速度を一定にして、始めの8秒間に一方向に運動し、次の8秒間に逆方向に運動する、往復で16秒間の基本映像を制作する。4種類の基本運動についてそれぞれ5段階の速度であるため、20種類の映像となる。最終的に実写映像には、この20種類の基本映像で表現されたそれぞれの速度に対応するシーンが含まれるように、シーンごとに撮影に用いたカメラの動きをそれぞれの基本映像のカメラの動きと対応させた。こうした映像で重要な点は、実験の際に実験参加者に飽きさせず映像を視聴してもらうことであり、そのために今回の映像制作では最低限のストーリー性が加えられた。ただし、このストーリー性が情緒的な影響を与えることで生体計測に影響することがないように、必要最小限にとどめる必要があった。そのためにも映画プロデューサーの協力が不可欠であった。4.5 映像酔い評価モデル精度向上のための生体影響計測映像酔いに関する生体影響計測では、一般に、主観評価を中心とする心理的計測と、自律神経系への影響を調べる生理的計測とがある。既存の研究においては、いずれか一方の計測を主体とする事が多く、両者の関係を映像酔いの時間推移に対して検証するということは、これまであまり行われていない。しかし、主観評価は評価に対する性癖の個人差の問題が残るため、客観的なデータの裏付けができる限り求められる。一方、生理的計測はその値に変化によって何が示されているかを検討するために、主観評価との突き合わせが必要になる。したがって、映像酔いの計測データの信頼性を向上させるためには、両者の計測が不可欠である。映像酔い評価システムの開発にあたっては、心理的計測と生理的計測を同時に実施し、両者の時間推移の関係にまで踏み込んで検証を行った。生理的計測については、その計測法開発に経験豊富な東北大学、新潟大学、福島大学の協力を得て、映像視聴中の主観評価の時間推移と生理指標との関連を検証した[14]-[17]。なお、これを実施するために、上述の大学と産総研とで実験プロトコルを共通化し、計測データを共有化することで、効率よく多数の実験参加者のデータを収集することができた。こうした生体影響計測により、血圧−心拍数間の最大相互相関関数であるρmaxが、主観評価の時間推移とともに1分程度の時間的ずれをもって変化すること、また心電図と指尖光電脈波の計測による複数の生理指標により、主観評価値の時間推移の推定が可能であることが、東北大学や福島大学により明らかにされた[14][17]。映像酔い評価モデルでは、4.3節に述べたとおり、視覚的グローバル運動が一定時間だけ該当する速度帯域に含まれるたびに、一過性の反応と持続性の反応を出力する仕様とした。このモデルの出力については、4.4節で述べた映像を複数利用して実施した生体影響計測の時系列データから推定したインパルス応答関数に近似させることで、その精度向上を図った。その際に、生体影響計測の時系列データとして、1分ごとに計測した主観評価を用いたが、上述のとおり複数の生理指標によって主観評価値の時間推移の推定が可能であることから、この映像酔い評価モデルは生理学的計測指標によっても裏付けられていると言える。5 技術要素の連携と評価5.1 技術要素の連携による特徴前章の技術要素の組み合わせにより、映像酔い評価システムの構築を行った(図6)。本評価システムはソフトウエ
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