Vol.3 No.2 2010
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研究論文:サービス工学としてのサイバーアシスト(中島ほか)−101−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)ある。実社会で多数用いるには高価すぎるという点からこのシステムの利用は基礎研究のみにとどめた。このi-lidarから派生注7した概念が赤外線通信を用いた無電源端末CoBIT[12](図5)である。これは赤外線により位置指定と通信を同時に行う(さらには端末へのエネルギー供給も同時にこの赤外線が行う)という意味で位置に基づく通信の例であるとともに、「マイボタン」概念の要求する簡単かつ自然なインターフェースを満たすCARC初の成果となった。環境側に必要な装置もLEDのみに簡略化することによりさまざまな応用が可能となり、CARCが設立した産総研ベンチャー「サイバーアシスト・ワン」を通じて普及させる構想もでき、実際に5章で述べるような多くの応用がなされた。CoBITは光源の前方に位置したときのみ情報を受信するという意味で、「位置に基づく通信」を行っている。Suicaは10 cmの超近接通信を行う位置に基づく通信システムであるが、CoBITは数メートルオーダーの通信距離を持っている。Suicaは電磁波であるため無指向である。このため高い位置精度を要求する。一方CoBITは光通信の利点として方向性を有している。即ち光源に向いた場合のみ受信可能である。この方向性を活かすことによって、同じ位置で向きによる複数の情報の分離が可能となる。たとえば街角の信号機から盲人用の案内情報を流す場合、位置だけでなく方向性が重要である。ある方向の信号が青でも、それから90度ずれた方向の信号は赤になっており、どちらに行きたいかによって情報が変わることが重要である。4.2 ミドルウエアの設計と開発ユビキタス・コンピューティングの世界では、さまざまなデバイスがアドホックに連結されるため、デバイスの固定コンフィギュレーションを前提とした従来型OSの概念は通用しない。ハードウエアとソフトウエアの層の間にミドルウエアと呼ばれる層を構築し、ここで異種デバイスの相互接続や、デバイスを仮想化してアプリケーションソフトウエアに見せる等の変換を行う必要がある。ソフトウエア研究チームではUBKit[13]と呼ぶミドルウエア構築のためのツール群を提案・実装し、情報家電システム等の実装に用いた。CARCでは、デバイス研究チームもCoBITのための独自のミドルウエアを構築していたため、両者の共通化に腐心した。しかしながら、ベースが違いすぎたのと、3年余りという短い研究開発期間で各々のアプリケーションを優先したため、CARCの全体会議では再三話題に上ったものの、この共通化は最後まで実現しなかった。時間が足りなかったことが主要因ではあるが、残念である。4.3 マルチエージェントシミュレーションの応用マルチエージェントチームは交通シミュレーション等[14][15]の基礎研究の他、シミュレータ技術の応用として、日本発世界標準となった「ロボカップ」[16](サッカーならびにレスキュー)における標準シミュレータ構築等の中心的役割も果たした。ロボカップにおいてはサッカーもレスキューも共に実機(ロボット)部門とシミュレーション部門があるが我々はシミュレーションのみに参加している。時期的にはサッカーはCARC開始以前から行われていた活動を続けたものであり注8、レスキューはCARC時代に開始されたものである。同時にレスキューシミュレーションや災害時にユーザー端末をアドホックに繋いだ情報伝達システム(無線)のシミュレーション等も行った。災害時の情報伝達システムは日常使っているものをそのまま使うのが望ましいので、CoBIT等の無電源端末にまで広げられればCARCとしてのテーマが閉じるのだが、果たせずにいる。5 豊富な実証実験や応用CARCではサービスの設計のみならず、実際にサービスを提供し、そこからフィードバックを得る活動を重視した。サービス工学の実践である。以下に代表例を示す。5.1 After 5 Years新丸の内ビルの竣工に合わせて、5年後の情報環境を見据えたAfter 5 Yearsという名の展示会が開催された。会場では多くの展示が隣接して並べられていたため、当初音声無しで企画されていた。しかしながら、CoBITを使うことにより、展示の前に来た人だけに音声情報を伝えることが可能になる(位置に基づく通信の実現例)ため、これが採用された(図6)。この展示の他にも「ドラえもん」展等で使用した結果、音源となるLEDの劣化の問題が明らかとなった。LEDに供給する電源電圧を音声変調しているため、LEDの設計レベルを超える電圧がかかると性能の劣化が激しいことがわかり、これ以降の回路設計を修正した。この方式はその後もさまざまな展示(日本科学未来館や図5 CoBIT

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