Vol.3 No.2 2010
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研究論文:サービス工学としてのサイバーアシスト(中島ほか)−100−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)個しか無い個人用端末(図4)で、長年生活を共にした老夫婦の「阿吽の呼吸」のようにボタンの一押し(1ビットの通信)で「今、ここで、私が」欲しいサービスを得られるようにしようという努力目標である。つまり、ユーザーが多くを指示しなくても、その状況を共有・理解して適切な動作を行うのである。簡単かつ自然なインターフェースの究極モデルとして提案した。実際にはボタン1個ですべてをこなすのは無理だとは考えているが、ボタンの数が少ない方が良いのは事実である。また、ボタンを排除する完全自動化も好ましくないという意味を含んでいる。最終的な決断はユーザーの側に残すべきである。構成的研究においてはこのような、ニーズ指向でもシーズ指向でもない、ある意味理想化されたゴールを持つことは重要であると考えている。これを基に研究と応用のシナリオを組み立てることができる。サービス工学では新しい理想化されたサービスモデルを中心に据えることもできよう。3.3 インテリジェントコンテンツ近年のサービス提供において大きな比重を持つのがコンテンツサービスである。映画、ニュース、情報検索、音楽等のコンテンツと、それを提供する仕組みは車の両輪の関係にある。CARCではCoBIT(4.1節)等で提供されるコンテンツを操作する仕組みにも注目した。CARCでは電子データの構造化のための標準的な方法を策定し普及させるとともに、それに基づいて構造化されたさまざまな情報コンテンツ(インテリジェントコンテンツ)を作成・配布するための技術を開発した[8]。具体的には文章や映像にタグ付け[9]を行うことにより、構造を明示し、コンピュータによる意味処理を可能にした。それによってコンテンツのさまざまな操作、特に意味に基づく検索や再構成が可能となる。さらに、自然言語処理やマルチエージェント等の技術を用いてインテリジェントコンテンツのさまざまな応用技術を開発した。これによって、コンテンツの意味に関する情報を広く共有し再利用できる社会の構築を目指した。情報コンテンツはしばしば実世界に関するデータであるから、インテリジェントコンテンツを物理世界にグラウンディングすることにより、世界を意味的に構造化できる。位置に基づく通信と世界の意味的構造化とは情報をグラウンディングするための車の両輪である。これらにより情報の意味をコンピュータシステムと人間が共有でき、従来にないシステムの実現の可能性をもって社会全体に長足の発展を促す。それは、これらの技術の応用分野が、通信技術や知能情報処理技術の全般に関連する極めて幅広い範囲におよぶからである。特に、こうした技術と携帯電話等の技術とは互いに補完する関係にあり、これらが自然に融合することによって、時と場所を選ばないさまざまな知的情報サービスが実現される。CARCでは、上記のような基礎技術を開発し、関連する規格の標準化を推進するとともに、研究要素の大きい代表的な応用技術のいくつかについてプロトタイプを示し、多くの応用に共通のプラットフォームを広く提供することにより、民間企業が他のさまざまな応用技術を開発するための基盤を整備することを目指した。現在、これらの研究は映画の場面の検索、オンライン綜合辞書[10]の共同執筆システム等に結実している。CARCとしては後述のイベント空間支援システム(5.2節)や愛・地球博(5.4節)等における情報提供システムでの利用も想定していた。大量のタグ付きデータから状況に応じて必要とされる情報をリアルタイムに再構築し端末へ発信するのである。しかしながら、コンテンツ作成にかかるコストの膨大さと、適切な内容を切り出す際に必要となるセンシングの設備の欠如等から、部分的にしか実現できなかった。4 プロジェクト群(研究開発内容)研究開発内容について目標テーマ毎に記述する。内容は研究開発の進展により徐々に変化したが、ここでの記述は最終成果時点の観点によるものである。なお、活動内容は多岐にわたり、すべてをここに記すことはできない。以下は代表的な成果である。4.1 マイボタンを目指した端末の開発プロジェクトの初期には「位置に基づく通信」(3.1節)の例としてレーザー・レーダi-lidarによる位置測定と通信を組み合わせたものを考えていた[11]。i-lidarは時間変調をかけたレーザー光を反射波と干渉させることにより対象物との距離を測定する装置である。レーザーの発射方向の情報と合わせることにより対象物の3次元位置が測定できる。しかしこの装置は1台あたり数千万円のコストがかかり、量産時にも百万円のオーダーを下回ることは不可能でスピーカーマイク太陽電池再帰反射板指紋検知器指令用ボタン図4 マイボタンのイメージ(例)
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