Vol.3 No.2 2010
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−167−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)報告:知の統合を目指す学問体系Synthesiology3、4)を2008年に刊行した。1巻1号には6編の研究論文を掲載したが、それぞれの論文題名を以下に記す。・不凍蛋白質の大量精製と新たな応用開拓・高齢者に配慮したアクセシブルデザイン技術の開発と 標準化・高機能光学素子の低コスト製造へのチャレンジ・異なる種類のリスク比較を可能にする評価戦略・個別適合メガネフレームの設計・販売支援技術・耳式赤外線体温計の表示温度の信頼性向上論文題名にある、大量精製、標準化、低コスト製造、評価戦略、設計・販売支援技術、信頼性向上といったキーワードは、これまでの学術論文の題名にはほとんど使われないものであり、第2種基礎研究の論文の特徴がよく出ている。Synthesiologyの研究論文の査読は同じ専門領域の研究者が行うピアレビューとせず、大ぐくりした同じ分野から一人、他の分野からもう一人の研究者を充て、Table 1にある評価の視点からメリットレビューを行った。またSynthesiologyの特徴の一つであるが、掲載された論文のうしろに、著者と査読者との議論を載せて公開した。同時に査読者の氏名も公表した。第2種基礎研究の論文形式が十分に完成していない現段階では、著者と査読者との議論を公開した方が、今後論文形式を固めていく上で有用と判断したためである。読者からはこの議論が大変新鮮で面白いという感想が多く寄せられている。Synthesiologyを刊行してほぼ2年近くになるが、発行してみて分かった点がいくつかあるのでそれを紹介する。まず多くの著者から、今までの学術論文誌では書きたくても書けないことが今回書けた、と言う感想があった。研究者にとって、自己の研究目標の背景や理由、また研究遂行に当たって自己が採用したシナリオはむしろ公開し、他の研究者と議論したいという前向きの気持ちの現われと見ている。つぎに査読者からは、シナリオに研究者固有のオリジナリティが良く出ているとの感想があった。一方で要素技術の構成や統合の様態は研究者ごとに多様であり、現時点で何らかの統一的な様態を描き出すことは難しいが、少しずつ類型化を進めていけるのではないかと予想している。一方ほとんどの査読者が驚きとした点は、専門領域が異なる研究者が書いたオリジナルな研究論文を読んで、内容を理解できただけでなく、一定水準の査読意見を提出できたことである。このようなことは現行の第1種基礎研究の学術論文誌ではありえないことで、Synthesiologyの大きな特徴であり、広い読者層に受け入れられる可能性があるのではないかと受け止めている。読者からは同じく、自己の専門とは異なる領域の研究を理解し、知ることができたことを有益とし、参考になるとの意見が寄せられている。地球環境問題をはじめとして複合的な研究課題が多く出てきている現代にあって、またオープンイノベーションといった新たな産官学連携が唱導されている中にあって、構成的研究の方法論は、その表現媒体でありかつ交流の場でもあるSynthesiologyとあいまって、一定の重要な役割を果たせるのではないかと考えている。6 さらなる議論に向けて構成的研究においては有用性を重視するが、科学技術はそのおこりにおいて既に有用性がうたわれていた。現在我々が営んでいる自然科学研究の思想はフランシス・ベーコンに始まるが、自然を探求して発見・発明を行なうことによって人類は幸福になると主張されていた5)。それと同時に、自然科学は実証主義をとり、そのための方法として学術雑誌が確立したが、そこにおいては事実的知識としての検証が重視されることになった。その一方で、ベーコンが期待していた有用性については、研究社会ではその検証方法に手がつけられてこなかった。とはいえ、大発見、大発明という言葉があるように、社会は価値ある発見や発明を科学技術に期待している。その価値の基準の一つが有用性であると考えられるが、有用性の評価は容易ではない。社会へのインパクトという観点からは研究成果が市場にどれだけの影響を与えたかによって評価することが考えられるが、市場におけるダイナミックスは、既存権益や業界を守るための抵抗、流行また価格競争など、科学技術としての価値とは別のものによって大きく動かされることが多い。これらのこともあり、長い時間が経ってみないと市場での評価は定まらない。したがって、市場でのインパクトによって有用性をはかることは必ずしも適切ではない。構成的研究を行って社会に成果を出していく時に、いわば漫然と要素技術を構成していく場合もあるが、充分な検討をしながら要素技術を構成していく場合もあろう。しかし、前者のように構成されたものは、偶然うまくいく場合もあろうが、多くの場合には良い結果を生まないであろうことは想像にかたくない。したがって、後者のような研究の進め方が有用性をはじめとする価値を生み出すためには不可欠であろう。そこで、研究の進め方すなわちプロセスのことをシンセシオロジーではシナリオを呼んで、それを論文として記述することを求めている。しかしながら、その有用性をどのように考えるべきか、またその有用性を実現するためのシナリオがどうあるべきかは定かではない。そこで、横幹連合、統計数理研究所、産業技術総合研究所との合同企画として、田村義保氏(統計数理研究所)、

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