Vol.3 No.2 2010
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−166−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)報告:知の統合を目指す学問体系研究論文が学術論文誌に掲載されることは、研究者であることの最も基本的な要件であることから、研究者は全力で研究論文の執筆に取り組む。特にピアレビューアーと呼ばれる同じ専門領域の研究者に、自己の研究成果が価値あるものと評価されなくては学術論文誌への掲載が認められないために、研究者はしばしば自己の専門領域の研究者を納得させることを第一に想定して研究論文を書くことになる。研究者がこのような努力をすればするほど、皮肉なことに、研究論文は他の専門領域の研究者や一般の技術者には理解が困難な記述に陥っていく。このようにして、近年世界的にも多くの学術論文誌が発行され、発表される研究論文の数もうなぎのぼりの状況にあるが、公的資金で行われる基礎研究の成果は、資金の提供者のもとに直接還元されにくい状況は変わっていない。ところがこのような状況の中でも、研究者によっては、個別の専門領域の学会を通さずに直接社会や産業界に成果を提供しているものがある。例えば公的研究機関が民間企業と共同研究を行って製品のプロトタイプを作るような場合には、研究成果を研究機関と企業が共有するよい機会となる。その他にも特許情報、リスク情報、地質情報などの情報や、技術規格や計量標準・標準物質などの公的な基準、ソフトウェアパッケージなども学会を通さずに直接利用者に届けられることが多い。これらの成果は第2種基礎研究の代表的なものであり、社会に直接的な貢献をする点で価値が高い。ところがややもするとこれらの活動は、本来の研究活動とは別のサイドワークのように軽んじる傾向がある。さらに現状では第2種基礎研究の成果を研究論文として記述する方法論も媒体も確立されていないという状況にもある。第2種基礎研究のプロセスと成果を価値あるものと評価して、オリジナルな研究論文として発表できるような新たな論文形式を開発し、それらを掲載する新たな学術論文誌を刊行することは大きな意義があると考える。4 新たな論文形式の開発現代では研究者が、自己が行った研究のプロセスや内容を学術論文にまとめ、学術論文誌に発表することはごく当然のことと思われている。逆に研究論文を全く書かない研究者と言うのはそもそもありえないし、そのような場合はむしろ正当な研究者とは評価されない。しかしながら少し振り返ってみれば、現在我々が書いている科学技術の研究論文は、極めて限定された一定の形式のもとで書かれていることに気付く。現在の科学の源流は17世紀の西欧にさかのぼるが、それ以来科学の方法には、ある事象が事実であるか否かを論文の構成・第1種基礎研究の結論は参考文献へ参考文献・選択した要素、統合・構成の方法・設定したシナリオオリジナリティ結果の評価と将来の展開5要素間の関係付けとそれらの統合・構成4シナリオの提示と要素の選択 3研究目標の社会的価値2研究目標の設定1 論文の特徴判断するための実証主義が取り入れられている。研究者が研究論文を書く場合には、著者以外の他の研究者が追試をすることにより、その結果が論文で述べられている通りになるかどうかを検証できるだけの十分な情報を記述しなければならない。また事実として確認された事象間の論理的関係について考察し、法則や定理を構築していく。このように現代の科学技術の研究論文には、著者がなぜその研究を始めたのか、どのような動機と意図をもっていたのか、なぜそのような決断をしたのかなど、“客観的”事象と関連のないことは書かないこととし、わずかに記述したとしてもそれを査読の対象にすることはなかった。その理由は、事実的知識の蓄積を第一の優先事項としてきた第1種基礎研究では、“客観的”事象の記述が重要であり、それだけで十分と言えたからであろう。しかしながら社会的な価値の実現を研究の動機とし、複数の同等なシナリオの中から一つを選択するような第2種基礎研究の場合、“客観的”事象を記述するだけでは研究の最も重要な部分を表現しきれない。そこで第2種基礎研究の論文の構成をTable 2のように考えた。これはFig. 1に示した第2種基礎研究の方法の各プロセスを研究の展開の順に並べたものである。論文のオリジナリティは、設定したシナリオの独自性と要素技術の統合・構成の方法の固有性にあると考える。ありていに言えば、同じ研究目標を掲げても、異なる研究者が行えば異なるシナリオが設定されるであろうし、異なる要素技術が選択されれば異なる統合・構成の方法が採られるであろう。それゆえにこれらは研究者に固有の"オリジナル“なものと考えられる。また第2種基礎研究の論文には要素技術の詳細を繰り返して書く必要はない。それはすでに第1種基礎研究の成果として論文で発表されているものであろうから、参考文献に挙げて結果のみを記述すればよい。5 新しい学術論文誌 Synthesiology の刊行新たな論文形式と執筆要領を定めて、新しい学術論文誌Table 2 Contents and features of Synthesiology papers
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