Vol.3 No.2 2010
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研究論文:正確性・コストパフォーマンスに優れた遺伝子定量技術の開発と実用化への取り組み(野田)−156−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)技術が完成するものと期待される。このように、簡便性やコストパフォーマンスを追求した形で、Universal QProbe法とABC法を基盤とした遺伝子検出・定量技術が普及して欲しいというのが筆者等の夢であるが、将来的な展望として、Universal QProbe法とABC法とを組み合わせた新規技術の開発も目指している。具体的にはABC法で利用する蛍光プローブをUniversal QProbeで置き換えるという技術であるが、そのためにはジョイントプローブに関するアイデアをより高度化する必要があるなどのさまざまな難題がある。しかし、Universal QProbe法とABC法が統合された技術はABC法の正確性とUniversal QProbe法の柔軟性を併せ持った技術になるので、コストパフォーマンスやプローブ合成に係る準備期間短縮等の面で社会的インパクトの高い技術になることが予想される。2009年のリアルタイムPCRの国内市場は装置関連が推定68億円(前年比3億円の増加)、試薬関連は推定45億円(前年比5億円の増加)となっている[13]。ヒト遺伝子の詳細な発現解析等遺伝子発現の定量分析に対するニーズは高まっており、リアルタイムPCRの市場も今後ますます拡大していくことが予想される。これまでコスト的な面から、遺伝子検査等の導入を見送っていた施設や開発途上国等においても普及が進むことが予想されるが、そのためには低コストでの導入が可能なシステムが重要と考えられる。Universal QProbe PCR法とABC-PCR法はコストパフォーマンスや汎用性に優れており、そのような社会情勢の中でも、次世代の遺伝子定量技術として期待が持てると考えられる。5 おわりに本稿ではUniversal QProbe PCR法とABC-PCR法という二つの遺伝子定量技術について、構成学的視点から開発段階の要素技術および開発後の実用化シナリオを論述した。完成された技術の原理図はシンプルに見えるが、要素技術の選択からその結集に至るプロセスにおいて、実はさまざまな苦労や試行錯誤があった。産総研、早稲田大学、(株)J-Bio21の3者間での共同研究体制のもと10名以上の研究者がアイデアを結集し、議論を重ねて技術を完成させた。一つ一つのピースを穴埋めする作業を繰り返し、あたかも難解なパズルを解いていくかのようにして完成した技術がUniversal QProbe PCR法とABC-PCR法である。この技術に用いたコアとなる要素技術は、グアニン塩基との間で起こる蛍光色素の消光現象であるが、蛍光色素とグアニン塩基との位置関係やプローブと増幅産物の結合力等を考慮すると蛍光プローブの消光パターンは無数にあり、どれが最も効率良く安定的に消光して、遺伝子定量に適しているかを試行錯誤する必要があった。知識と経験から予想がつく消光パターンだけではないので、一つ一つ未知の可能性を試していく作業はゴールの見えない暗闇を進むような作業であった。今回は運良く技術を完成させることができたが、これは決して一人二人の力では為し得なかったことである。関わった研究者全てが立場を超えて、時に厳しい議論もしながら、協力し合って為し得た仕事である。第2種基礎研究の推進においては、第1種基礎研究で見出された現象等を多角的に見つめ直し、統合していくことで実用化技術を産み出すプロセスが重要となる。より効率的に第2種基礎研究を推進していくためには少人数のアイデア・視点だけで進めるのではなく、産学官のようなさまざまな立場の人間が信頼関係を築き、お互いの価値観を尊重し合いながら研究開発を進めていくことが肝要である。6 謝辞Universal QProbe PCR法の開発は(株)J-Bio21の蔵田信也氏、市川康平氏ら、早稲田大学先端生命医科学センターの常田聡教授、谷英典氏(現:東京大学RIセンター)ら、産業技術総合研究所の中村和憲氏、関口勇地氏らの協力によるものである。ABC-PCR法の開発は(株)J-Bio21の蔵田信也氏ら、早稲田大学先端生命医科学センターの常田聡教授、谷英典氏(現:東京大学RIセンター)ら、京都学園大学の金川貴博氏、産業技術総合研究所の中村和憲氏、関口勇地氏らの協力によるものである。また、ABC-PCR法の開発に関する研究資金はNEDO産業技術研究助成事業の支援によるものである。参考文献R. Higuchi, C. Fockler, G. Dollinger and R. Watson: Kinetic PCR analysis: Real-time monitoring of DNA amplification reactions, Bio/Technology (NY), 11, 1026–1030 (1993).M. Becker-Andre and K. Hahlbrock: Absolute mRNA quantification using the polymerase chain reaction (PCR). A novel approach by a PCR-aided transcript titration assay (PATTY), Nucleic Acids Res., 17, 9437–9446 (1989).C. Picard, C. Ponsonnet, E. Paget, X. Nesme and P. Simonet: Detection and enumeration of bacteria in soil by direct DNA extraction and polymerase chain reaction, Appl. Environ. Microbiol., 58, 2717–2722 (1992).T.B. Morrison, J.J. Weis and C.T. Wittwer: Quantification of low-copy transcripts by continuous SYBR Green I monitoring during amplification, BioTechniques, 24, 954–962 (1998).L.G. Lee, C.R. Connell and W. Bloch: Allelic discrimination by nick-translation PCR with fluorgenic probes, Nucleic Acids Res., 21, 3761–3766 (1993).J.R. Lakowicz: Principles of fluorescence spectroscopy [1][2][3][4][5][6]

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