Vol.3 No.2 2010
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研究論文:正確性・コストパフォーマンスに優れた遺伝子定量技術の開発と実用化への取り組み(野田)−155−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)列の遺伝子に対応することができるため、試薬キットで販売することのコストメリットはそれほど意味がない。したがって、本手法の利点を生かしたビジネスプランとしてはクライアントの標的遺伝子配列に応じたジョイントDNAと蛍光プローブを提供する、もしくはクライアントの標的遺伝子配列の検出・定量を行う遺伝子解析受託サービスを提供するといった方法が考えられる。このようなビジネスプランにおいては本手法の特徴である、蛍光プローブのコストが安い、蛍光プローブ合成に要する準備期間が短いという点を最大限に生かして、安価で納期の早い遺伝子解析受託サービスの提供等を行うことができると考えられる。安価で納期が早いという特徴を発揮できる具体的なクライアントの一つとして、微生物を利用した環境浄化に関連する分野の企業が考えられる。近年、新聞等でも報じられているが、土壌汚染を巡るブラウンフィールドが問題になっている。このような土壌汚染の浄化に対しては、微生物を利用したバイオレメディエーションがコストの面から有効とされている。しかし、環境中に微生物を導入して汚染物質の浄化を行ううえでは導入した微生物のみならず、もともと土壌中に存在する微生物群等への影響を評価する必要があることがバイオレメディエーション利用指針でうたわれている。このような微生物群の評価には遺伝子情報に基づいた方法が有効であり、そのため遺伝子定量技術がこの分野において注目を集めている。環境中の微生物は非常に多様であり、検出対象微生物は土壌の種類毎に変化するため、1種類の蛍光プローブでさまざまな遺伝子配列に対応することが可能なUniversal QProbe PCR法は多様な環境微生物の検出・定量に非常に有効である。したがって、このような環境浄化ビジネスの分野において、多様な微生物群を低コストかつ短期間で検出・定量するような受託解析ビジネスがUniversal QProbe PCR法の有効な実用化の方策の一つとして考えられる。ABC-PCR法はUniversal QProbe PCR法とは異なる利点・欠点を持つため、実用化へのシナリオも異なる。ABC-PCR法の利点は遺伝子増幅阻害物質の影響を受けずに正確な定量ができる点と、遺伝子増幅反応終了後に蛍光を測定するだけで今までよりも簡便に標的遺伝子の定量が可能である点の二つである。前者においては既にリアルタイムPCR法を利用しているユーザーであっても、増幅阻害物質の影響に問題を抱えるユーザーにとっては、本手法の導入は大きなメリットがあるといえる。さらに、本手法は遺伝子増幅反応終了後に蛍光を測定することで標的遺伝子の定量が可能となるため、高価なリアルタイムPCR用のサーマルサイクラーが不要である。その代わりに遺伝子増幅反応終了後に蛍光を測定する蛍光測定装置は必要となる。共同研究を行っている(株)J-Bio21では、すでにこの蛍光測定装置(EGBoxと命名)の上市の準備を進めている(図10)。本装置はABC法における蛍光測定に特化した装置であり、具体的な仕様は蛍光測定部 1箇所、奥行18 cm × 横幅30 cm × 高さ15 cm、3.5 Kg、LED光源、励起波長3種である。PCRチューブをそのまま測定部に挿入するだけで、蛍光値を測定することができる。(株)J-Bio21では販売予定価格が100万円以下となるように準備を進めている。このような安価な蛍光測定装置と試薬キットを上市することで、遺伝子定量技術の導入を希望しているが、導入コストの面で悩んでいるようなケースに適合したビジネスができるのではないかと考えている。特に発展途上国等において、今後低コストで遺伝子定量技術の導入を行っていくことを目指した場合にはABC-PCR法は非常に適している。このような実用化シナリオを具現化するうえでは、持ち運びがしやすいサイズへの小型化、電池程度の電力を動力とすることが可能となる省エネルギー化等が課題となってくる。小型化・省エネルギー化を達成する技術として、近年微細加工技術を利用してシリコン、ガラス等の基板上に流路、回路等を成形し、微少空間内で反応・分離・検出を行うmicro-Total Analysis System (µ-TAS)が開発され、核酸・タンパク質等の生体分子の解析に利用されつつある。このようなµ-TASの技術とABC法を融合することで、小型化・省エネルギー化が達成されるであろう。また、ABC法は、PCR法以外の遺伝子増幅手法と組み合わせて利用することが可能である。たとえば等温遺伝子増幅法と組み合わせれば、サーマルサイクラーの代わりにエネルギー使用量の少ない恒温装置等だけのシンプルで安価な装置で遺伝子定量が可能になる。このような技術の開発のためには、遺伝子増幅技術の選択(必要に応じて新規等温遺伝子増幅法の開発)や簡易的な核酸抽出技術の開発等、まだ解決すべき多くの課題が残されているが、これらの課題を克服することができれば、社会で広く利用されている遺伝子定量技術よりも簡便で安価な遺伝子定量図10 簡易型蛍光測定装置(EGBox)試作機((株)J-Bio21製作)サンプル導入部仕様:蛍光測定部1箇所、奥行18 ㎝×横幅30 ㎝ × 高さ15 ㎝、3.5 KgLED光源、励起波長3種

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