Vol.3 No.2 2010
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研究論文:正確性・コストパフォーマンスに優れた遺伝子定量技術の開発と実用化への取り組み(野田)−153−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)緑色蛍光タンパク質として有名なgfp遺伝子(102〜106コピー)を標的遺伝子としてABC-PCR法における定量性の検討を行った。gfp遺伝子の配列を元に内部標準遺伝子を作製し、それを用いてABC-PCR法の検証を行った。PCR終了後の蛍光値から求めた蛍光消光率をいくつかのバックグラウンド蛍光値で補正した値を相対蛍光強度とした。この相対蛍光強度と、初期鋳型に含まれる標的遺伝子の量の関係をグラフにしたものを図8に示す。本手法では、標準曲線は競合ELISA法等の他の一般的な競合的測定法により得られる標準曲線と同様にシグモイド曲線に回帰することができる。図8より標準曲線の相関係数は0.9997であった。また、定量下限は103コピーであった。本手法は競合法であるため、一つの標準曲線での定量可能範囲は2〜3オーダー程度であるが、内部標準遺伝子の濃度を変えることで定量可能範囲を調節することができる。もしくは未知試料を測定する際に、対象の未知試料の希釈系列を作って測定し、定量可能範囲に入った希釈試料から標的遺伝子の量を求めることでも対応することができる。また、本手法は遺伝子定量だけでなくUniversal Qprobe法と同様に遺伝子の一塩基変異多型を識別するための遺伝子型解析方法としても活用することができる[10]。土壌等に含まれ、DNA増幅阻害物質として知られているフミン酸を添加して、ABC-PCR法とリアルタイム PCR法における定量値へ及ぼす影響を評価した。その結果、リアルタイムPCR法ではフミン酸の濃度が高くなるにつれて、定量値が真値よりも低くなる(過小評価される)が、ABC-PCR法ではフミン酸の存在下でも定量値が真値とほぼ同じ値であった[10]。また、フミン酸以外のDNA増幅阻害物質として尿素とTriton X-100を用いた実験においても、ABC法はリアルタイム法に比べて正確性の高い定量を行うことができることがわかった[12]。以上の結果から、ABC法はDNA増幅阻害物質の存在下でも正確な定量が可能という特徴だけでなく、遺伝子増幅反応終了後に蛍光を測定するだけで標的遺伝子の定量が可能であるという特徴も持つ。すなわち、遺伝子増幅反応がPCRであっても、それ以外の遺伝子増幅技術であっても同じように標的遺伝子を定量することができるのである。近年、PCR法に代わる等温遺伝子増幅法として、Loop-Mediated Isothermal Amplification (LAMP)法やHelicase-Dependent Amplificatio (HDA)法といった方法が開発されている。これらの等温遺伝子増幅法とABC法のAB-Probeと内部標準遺伝子を組み合わせることでABC-PCR法と同等のことが行えるため、ABC法はこれらの等温遺伝子増幅法とも組み合わせて利用することが可能である。このようにABC法は正確性が高いだけでなく、遺伝子増幅法との組み合わせという点から汎用性の高い方法であるといえる。4 開発技術の評価と実用化へ向けたシナリオここでは、開発した二つの遺伝子定量技術(Universal QProbe PCR法とABC-PCR法)の利点・欠点を既存技術と比較しつつ、それぞれの技術の利点が最大限活かされるような実用化へのシナリオについて考察する(図9)。表1に従来技術(TaqMan Probe法、QProbe法、インターカレーター法、競合法)とUniversal QProbe PCR法、ABC-PCR法の特徴を比較した。それぞれの技術には利点・欠点があるため、個々の技術の特徴を十分に理解した上で、その実用化の方策を考えることが重要である。なお、Universal QProbe PCR法とABC-PCR法の実用化へのビジネス展開は共同研究のパートナーである(株)J-Bio21が実際に進めているところである。表2はUniversal QProbe PCR法の特徴を、従来のリアルタイム法(蛍光プローブ法およびインターカレーター法)と比較したものである。表2からもわかるように、Universal QProbe PCR法は蛍光プローブ法とインターカレーター法の利点を集約したような技術である。マルチカラー検出については本稿ではこれまで触れなかったが、グアニン塩基の影響で蛍光が消光する色素としては色違いで4色利用することができるため、本手法はマルチカラーでの検出・定量にも利用することができる。Universal QProbe PCR法はリアルタイムPCR法であることから、リアルタイムPCR用のサーマルサイクラーは必須である。しかし、逆に考えるとリアルタイムPCR用のサーマルサイク初期鋳型量 (コピー)相対蛍光強度102103104105106-0.20.100.20.30.40.5-0.1Y = {-8.87×103/(1.58×104 +X)}+0.430R = 0.9997図8 ABC-PCR法における標準曲線初期鋳型に含まれる標的遺伝子の量と相対蛍光強度の関係を示す。PCR終了後の蛍光値をいくつかのバックグラウンド蛍光値で補正した値を相対蛍光強度とした[9]。得られたプロットを直角双曲線で回帰した。Rは相関係数である。
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