Vol.3 No.2 2010
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研究論文:正確性・コストパフォーマンスに優れた遺伝子定量技術の開発と実用化への取り組み(野田)−150−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)QProbe PCR法はグアニン塩基をクエンチャーとして利用しているため、蛍光色素は一つですむ。さらに、QProbe PCR法は反応終了後に40 ℃付近から徐々に温度を上げて増幅産物に結合した蛍光プローブの解離温度を測定する解離曲線解析を行うことで、増幅産物の妥当性を確認することができるが、TaqMan Probe法ではそれができない。このような利点を持つQProbe PCR法ではあるが、標的遺伝子に応じて蛍光プローブを設計・合成する必要があるのは他の蛍光プローブ法と同じである。蛍光プローブ法は増幅産物に特異的な蛍光プローブを利用するため検出・定量の特異性が上がるが、PCRプライマーに加え、蛍光プローブを設計・合成する必要があるためコストが高くなる。蛍光を標識しない合成オリゴヌクレオチドDNAが、一つの対象遺伝子に対して概ね2,000円程度で準備できるのに対し、蛍光を標識したプローブ(蛍光プローブ)はその価格が20,000円以上である。標的遺伝子が複数種存在した場合には、標的遺伝子毎に蛍光プローブを設計・合成する必要があるため、コストが高くなる。配列によらず1種類の蛍光プローブであらゆる標的遺伝子を定量することができれば、蛍光プローブを大量合成することの利点により、コストパフォーマンスに優れた新しい遺伝子定量方法の確立につながると考えられる。このような考えの基に開発したのがUniversal Qprobe法である(図2)[9]。グアニン塩基による蛍光消光を利用したQProbe法の原理を最大限に活かしつつ、さらに配列によらず1種類の蛍光プローブ(Universal QProbe)であらゆる標的遺伝子を定量するというコンセプトを実現するために、Universal Qprobe法には標的遺伝子と蛍光プローブの両者を結びつけるジョイントDNAというアイデアを加えた。ジョイントDNAは5´側には標的遺伝子に相補的な配列、3´側には蛍光DNAプローブに相補的な配列を持ち、両配列をシトシンとチミン塩基で繋いだ1本のオリゴDNAである。蛍光プローブは近傍のグアニン塩基の影響で蛍光が消光する色素で標識されている。ジョイントDNAは標的遺伝子と蛍光プローブの両者に結合し、蛍光プローブが標的遺伝子中のグアニン塩基に近づくと蛍光が消光する。そのため、QProbe法と同様に蛍光消光の程度を測定することで、標的遺伝子の量を測定することができる。本手法における蛍光プローブはその3´末端のアデニン塩基に蛍光色素を標識している。このアデニン塩基はジョイントDNA鎖内のシトシン-チミン配列のチミン塩基の向かいにきて、となりのシトシン塩基の向かいには標的DNAのグアニン塩基がくるので、グアニン塩基が蛍光色素のそばにきて蛍光消光するように設計されている。ジョイントDNAは標的遺伝子毎に設計・合成する必要はあるが、蛍光色素を標識しないため合成時間とコストが大幅に節約できる。これによって対象の遺伝子が異なった配列であっても、1種類の蛍光DNAプローブで定量が可能となる。2.3 PCR阻害物質に強いAlternately Binding probe Competitive (ABC) PCR法の開発リアルタイムPCR法では測定しようとする試料中にPCRを阻害する物質が含まれていると、定量結果を過小評価したり、定量結果が擬陰性となる問題が生じることが知られている。もともと阻害物質が少ない試料や高度に精製された試料ではそのような問題は少ないが、血液試料や腐食物質等が多く含まれる土壌試料等においては、増幅阻害物質が混在すると考えられ、増幅阻害が問題となることがある。競合的PCR法は古典的な方法であるが、この増幅阻害物質の問題を解決している。競合的PCR法では標的遺伝子と同じプライマーで増幅されるが増幅塩基長が標的遺伝子とは異なる内部標準遺伝子を利用する。具体的には標的遺伝子の内部配列の一部を欠失させたり、余分な塩基を加えたりすることで、標的遺伝子よりも短いあるいは長い内部標準遺伝子を作製し、それを既知の濃度で試料に加え、標的遺伝子とともに競合的にPCRを行うというものである。標的遺伝子と内部標準遺伝子は鎖長が異なるので、PCR後に鎖長の異なる標的遺伝子と内部標準遺伝子を電気泳動で分離後、標的遺伝子と内部標準遺伝子それぞれのバンドの濃淡を定量比較することで、既知である内部標準遺伝子量から標的遺伝子の量を測定することができる。この方法では試料中にPCR阻害物質が存在しても、その阻害効果は標的遺伝子と内部標準遺伝子の両者に同じように影響するために、結果的に正確な定量が可能となる。本手法はPCR阻害物質が存在しても正確な定量ができるという利点を有しているものの、電気泳動という煩雑な操作が必要なため、近年はあまり利用されていない。蛍光DNAプローブ :ジョイントDNAに強固に結合ジョイントDNA遺伝子A遺伝子B遺伝子C遺伝子A遺伝子B遺伝子C5’側:標的遺伝子に相補的3’側:蛍光DNAプロープに相補的3’3’3’3’3’3’3’3’3’3’3’5’5’5’5’5’5’5’5’5’3’3’5’5’5’3’3’5’5’5’1種類の蛍光DNAプローブで複数の遺伝子(遺伝子A, B, C)に対応近傍のグアニン塩基により消光近傍のグアニン塩基により消光近傍のグアニン塩基により消光図2 Universal QProbe法
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