Vol.3 No.2 2010
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研究論文:正確性・コストパフォーマンスに優れた遺伝子定量技術の開発と実用化への取り組み(野田)−149−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)DNAポリメラーゼの5´→3´エキソヌクレアーゼ活性による伸長反応によって分解される。プローブが分解されると、レポーター蛍光色素はクエンチャーと離れることから本来の蛍光を発するようになる。この蛍光強度を測定することによりPCR産物量を計測することができる。TaqManプローブは増幅産物にのみ特異的に結合することから、プライマーダイマーのような非特異的増幅産物の影響を受けないため、特異性の高い定量が可能である。本手法も幅広く利用されているが、二つの蛍光色素による標識が必要である。リアルタイムPCR法は、比較的短時間(30分〜2時間)に標的遺伝子の量を測定することができる、ゲル電気泳動が不要なためPCR増幅産物による実験室の汚染の心配が少ない、といった利点を持ち、真度・精度にも優れている。さらに遺伝子増幅を伴うため検出限界も低く、測定範囲も105〜108コピーに達する。しかし、1)増幅産物の量を測定するためにPCRの1サイクル毎に蛍光を測定する必要があるため、蛍光測定装置とPCR用サーマルサイクラーが一体となった高価なリアルタイムPCR 装置が必要(導入コストの問題)、2)蛍光プローブ法の場合には特異性は高くなるが、増幅産物量の測定のために標的遺伝子毎に蛍光プローブを設計・合成する必要がある(ランニングコストパフォーマンスの問題)、3)測定試料中にPCRを阻害する物質が入っている場合には標的遺伝子の量が過小評価される、もしくは擬陰性となる場合がある(頑健性の問題)のような欠点も存在する。今後の遺伝子定量技術の実用化面で、on-siteでの多検体を対象とした遺伝子定量技術の利用等を見据えた場合、頑健性、簡便性、コストパフォーマンスに重点を置きつつ、他の項目は既存の技術(リアルタイムPCR)と同等のレベルを保持した技術開発が望まれている。本稿では、上記のような観点から既存のリアルタイムPCR法に内在する問題を解決する新規技術として開発した二つの定量的PCR法を紹介するとともに、開発した技術の実用化を目指した企業との取り組みについても述べる。2 正確性・コストパフォーマンスに優れた遺伝子定量技術開発のためのシナリオ2.1 技術開発のためのコア技術:グアニン塩基による蛍光消光現象既存のリアルタイムPCR法に内在する問題を解決すべく、1)標的遺伝子が変わっても1種類の蛍光プローブで対応できる(蛍光プローブの汎用化によるコストダウンの実現)、2)PCR阻害物質の存在下でも正確な定量が可能、という二つの課題を克服する新しい定量的PCR法の開発を行った。この技術開発においてコア技術としたのが「グアニン塩基による蛍光消光現象」である。そもそも蛍光とは、(蛍光性の)分子が光を吸収して励起状態分子に遷移し、元の基底状態分子に戻る時に発する光を指す。すなわち、分子の励起状態と基底状態のエネルギーの差が蛍光エネルギーとして放出されているのである。分子が励起状態から基底状態に遷移する時に、近くに電子密度が高い別の分子が存在すると、この分子が電子供与体として蛍光分子に電子を供与するという現象が起きる。この時、もともとの蛍光分子で励起された電子は基底状態に戻ることができなくなるため、本来の蛍光を発することができなくなり蛍光が消光するのである。この現象は光励起電子移動反応(Photoinduced Electron Transfer: PET)と呼ばれており、分子内・分子間で起こることが知られている[6]。核酸を構成する塩基の中ではグアニン分子の電子密度が最も高いために、この光励起電子移動反応による蛍光消光を引き起こしやすい。すべての蛍光色素がグアニン塩基との間で蛍光消光を起こすわけではなく、BODIPY FLやTAMRAといった、いくつかの蛍光色素が特にグアニン塩基との間で蛍光消光を起こしやすいことが知られている[7]。グアニン塩基による蛍光消光現象は可逆的反応であるので、核酸の検出・定量のためのツールとして使い勝手が良い。末端のシトシン塩基にBODIPY FLを標識した20塩基長程度の蛍光プローブに対して、完全に相補的なDNAを準備し、同一の反応溶液内で結合(ハイブリダイゼーション)が起こるように温度等を調節するとBODIPY FLの蛍光は消光する。その後、温度を上昇させるなどをして、結合を解離させるとBODIPY FLは再び蛍光を発するようになる。このように、結合・解離を制御することで蛍光のON/OFFを制御することができる。また、蛍光消光の程度を測定することで、蛍光プローブに対する相補鎖の量を推定することが可能となるのである。この現象を利用した定量的PCR法はQuenching Probe (QProbe) PCR法として、生物機能工学研究部門から派生した産総研ベンチャーである(株)J-Bio21の蔵田信也博士らと産総研との共同研究により開発され、すでに実用化が成されている[8]。筆者は蔵田信也博士らのグループおよび早稲田大学先進理工学部常田聡教授らのグループと共同研究体制を構築して、このQProbe PCR法をさらに発展させた新規技術の開発を目指した。2.2 蛍光プローブの汎用化によるコストダウンを実現したUniversal Qprobe法の開発蛍光プローブを用いたリアルタイムPCR法として最も良く利用されているTaqMan Probe法が、二つの蛍光色素(レポーター色素とクエンチャー色素)をプローブに標識する必要があるのに対し、同じリアルタイムPCR法である

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