Vol.3 No.2 2010
56/88
研究論文:正確性・コストパフォーマンスに優れた遺伝子定量技術の開発と実用化への取り組み(野田)−148−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)は、繰り返し測定を行った際の測定結果のばらつきの(低さの)度合を意味する。検出限界は測定対象分子を検出する際の最低量を指し、定量限界の場合は適切な真度と精度を保って定量できる測定対象分子の最低量を意味する。直線性は、一定の範囲内で測定対象分子の物質量と測定結果が直線関係で表される能力の度合であり、範囲は、適切な真度、精度、直線性を与える測定対象分子の濃度の上限および下限を意味する。頑健性は、測定の条件が変動した場合に測定値が影響を受けにくい度合を意味し、例えば遺伝子定量においては阻害物質の混入の影響等もこの要素に影響を及ぼすものと考えられる。分析法間比較同等性は、得られた測定値に関して、同一試料を他の(基準となる)方法で測定した結果と比較した場合の測定値の同等性を意味する。これらの定量性の指標以外にも、計測の実用化の観点から、簡便性、コストパフォーマンス、スループット性、迅速性等が重要な要素となる。実用的な遺伝子定量技術の開発を想定した場合には、その技術が一定水準以上の特異性、真度、精度、検出限界を持つのは当然のことであるが、さらにその上で頑健性(阻害物質の混入等があっても正確な定量が可能)および簡便性が高く、コストパフォーマンスに優れている方法が普及しやすいと考えられる。特定の遺伝子(定量対象の遺伝子)の定量においては、試料中に含まれる標的対象遺伝子は通常極めて微量な場合が多いということを念頭に置かなくてはならない。したがって特定の遺伝子の定量を行うためには、まず雑多な核酸混合物の中から目的とする遺伝子のみを特異的に増幅する必要がある。この目的遺伝子の増幅法にはさまざまな方法が考案さているが、最も良く利用さている方法がPolymerase Chain Reaction (PCR)法である。PCR法はノーベル化学賞を受賞した米国の研究者キャリー・マリスが1984年に開発した方法であるが、耐熱性のポリメラーゼ、反応の起点となる短いDNA断片(プライマー)等の試薬を利用し、温度のサイクリックな変化を与えるという簡単な方法で指数関数的に目的遺伝子を増幅することができる。しかし、PCR法による最終的な増幅産物量は必ずしも最初の反応溶液中の標的遺伝子量を反映しないため、最終増幅産物量から最初の標的遺伝子量を直接定量することができないという問題がある。そのため、PCRを利用して目的遺伝子を定量する技術(定量的PCR法)においては、最初の反応溶液に含まれる標的遺伝子の量を測定するための工夫が必要になる。定量的PCR法にはリアルタイム法[1]、競合法[2]、限界希釈法(MPN法)[3]等、測定原理の異なる方法がいくつか開発されている。その中で最も利用さている方法がリアルタイム法である。リアルタイムPCR法ではPCRの1サイクル毎に増幅産物の量を測定し、指数関数的な増幅反応が起こっている領域において、反応産物が所定の量に達するのに要したサイクル数(Cycle of threshold: Ct)を求める。このCtと初期の反応溶液に含まれる遺伝子量の関係をあらかじめグラフにしておくことで(標準曲線)、未知試料について求められたCtをもとに標準曲線から初期の反応溶液中の標的遺伝子の量を算出することができる。リアルタイムPCR法においては増幅産物の量を1サイクル毎に測定する必要がある。このために増幅産物の量を蛍光で識別定量する手法が利用されている。代表的な方法として、SYBR Green等のインターカレーターを用いる方法[4]とTaqManプローブ法[5]のような蛍光プローブを用いる方法がある。SYBR GreenはDNAの2本鎖に取り込まれると蛍光を発する特殊な蛍光色素(インターカレーター)の1種で、PCRの反応溶液にSYBR Greenを加えておくと、PCRによって増幅された2本鎖DNAにSYBR Greenがインターカレートして蛍光強度が増加する。この蛍光強度を計測することでPCR産物の量を測定することができる。この方法はどのような配列の標的遺伝子に対しても同じ試薬で対応することができ、低コストで簡便であるため広く利用されている。一方でプライマーダイマーのような非特異的な増幅産物でも蛍光が増加してしまうため、蛍光強度とPCR産物量が必ずしも一致しない場合もあるという欠点がある。TaqManプローブ法は図1に示したように、標的遺伝子の増幅領域の一部分の塩基配列に対応したオリゴヌクレオチドの一端をレポーター(蛍光色素)で標識し、もう一方の端をレポーターの蛍光を消光させるためのクエンチャーで標識したプローブ(TaqManプローブ)を用いる方法である。PCRの反応溶液にTaqManプローブを加えておくと、PCR増幅産物に結合したTaqManプローブが発光DNAポリメラーゼプライマークエンチャーレポーター③ 伸長反応② プライマー、プローブの結合① 熱変性3’3’3’5’5’5’TaqManプローブ図1 TaqManプローブ法
元のページ