Vol.3 No.2 2010
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研究論文:コンパクトプロセスの構築(鈴木ほか)−146−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)川﨑 慎一朗(かわさき しんいちろう)1996年3月鹿児島大学大学院工学研究科機械工学専攻博士前期課程修了。1996年4月水処理エンジニアリング会社に就職し、難分解性有害廃棄物(ポリ塩化ビフェニル、ダイオキシンなど)の完全分解技術として超臨界水酸化プロセスの実用化研究に従事した。2006年3月東北大学大学院環境科学研究科環境科学専攻博士後期課程を修了し、博士(環境科学)。同年4月産業技術総合研究所に入所し、超臨界水および超臨界二酸化炭素利用技術のエンジニアリング研究を行っている。特にマイクロミキサーの開発に注力し、流体混合デバイスの基盤研究を中心として、超臨界水熱合成による金属酸化物微粒子合成の研究を行っている。本論文では、マイクロ混合器の開発、超臨界水による金属酸化物微粒子合成プロセスの開発を担当。畑田 清隆(はたけだ きよたか)2005年3月東北大学大学院環境科学科博士後期課程修了。博士(環境科学)。1966年産業工芸試験所入所。その後、組織変更に伴い東北工業試験所、東北工業技術研究所を経て産業技術総合研究所へ。超臨界水有機合成の発端となったε−カプロラクタムの合成を実験的に明らかにした。本論文では、高温高圧水条件下のニトロ化合物の連続合成系を本質的に担当。査読者との議論 議論1 全体的にコメント(原田 晃:産業技術総合研究所東北センター)副題「高圧マイクロエンジニアリングと超臨界流体との融合そして協奏」ですが、「融合」と「協奏」の意味について解説して下さい。回答(鈴木 明)副題として付けた「高圧マイクロエンジニアリングと超臨界流体との融合そして協奏」は、単なる「1+1=2」的な融合ではなく、超臨界流体の特性が高圧マイクロエンジニアリングを用いることで3にも4にもなるということを表現しております。近年、化学の世界でも「協奏的反応場」なる言葉も使われ始めています。ただし、「融合」という言葉の中にも単なる合流という意味合い以上の要素も含まれていると思いますので、読者の理解のためには「協奏」を削除し、「高圧マイクロエンジニアリングと超臨界流体との融合」としたいと思います。コメント(大和田野 芳郎:産業技術総合研究所研究コーディネータ)専門外の読者のために、本稿で紹介されているコンパクトプロセスは、次のどちらに該当するかが書いてあるとよいと思います。 1)従来不可能だった合成を可能にしている 2)従来法に比べて低環境負荷または高い収率を実現している。また、2)ならば、従来法と比べて、生産量(の可能性)や省エネルギー性などが定量的にどうなのか、どんな価値を目標とするのかを、できる範囲で示して下さい。例えば、「ナンバリングアップ戦略」の後半や、最後の「今後の展開」に、何の製法、どんな産業に用いられていくのか、やや具体的な将来像を示せるとよいと思います。回答(鈴木 明)本稿で紹介したコンパクトプロセスは、従来、大量集中生産方式で生産されていたバルクケミカルなどを、必要な場所で必要な量を生産する分散適量方式に転換するための高速で制御性の高いプロセスを意味しています。したがって、従来不可能だった合成を可能にするものではなく、従来法に比べて低環境負荷であり、かつ高収率を実現するプロセスです。本稿では、有機合成例として二つの反応例(ベックマン転移、ニトロ化)を挙げておりますが、両者とも従来は濃硫酸を酸触媒として用いていましたが、コンパクトプロセスでは濃硫酸の役割を高温高圧水が担うことにより、無触媒(硫酸未使用→低環境負荷)かつ高速(マイクロ反応→高収率)のプロセス構築が可能となりました。以上の議論を明確化するため、「ナンバリングアップ戦略」の中で従来技術と比較してマイクロ熱交換の優位性を記述し、さらに「今後の展開」において、εカプロラクタム合成を例に取り、生産量増大の可能性などについて記述しました。コメント(原田 晃)この論文で使われている「コンパクトプロセス」という言葉は、一般的な意味合いよりは狭義な、化学工業に特化した意味を持っているものになっているように思います。専門外の読者のために、「コンパクトプロセス」とは何かをどこかで定義してはどうでしょうか。回答(鈴木 明)本文中に、「ここでいうコンパクトプロセスとは、資源・エネルギー循環の容易な低環境負荷型の安全で小回りのきく効率的なプロセスのことで、高速で制御性の高い機能を有しており、分散適量生産方式を実現することができる。」と記載しました。議論2 循環システムの構築でのバランス質問(原田 晃)「1.研究の背景・目的」の中での議論で、「回収と再利用のバランス」が重要と主張しているが、このことが循環システムの構築にとって必要条件になるのでしょうか。回答(鈴木 明)大量集中生産方式では、扱う量が極めて多量であり、ある工程から排出される副生物の回収や廃棄物の再生により他工程、あるいは他工場での再利用が可能としても、需要と供給のバランスや移動の問題などにより現実的な対処法となり得なかったと考えています。すなわち、循環システムの構築が困難であったと思われます。議論3 従来法との比較質問(原田 晃)「2.マイクロリアクタと超臨界水の融合・協奏」ですが、論旨からすると、まず従来法との比較が必要ではないかと思いますが、いかがでしょうか。回答(鈴木 明)濃硫酸を用いたベックマン転移によるカプロラクタム合成は、収率98 %と高効率プロセスです。一方、表1に記載した高温高圧水のみによる収率は83 %であり数値的には劣りますが、濃硫酸を全く使用しないという大きな優位性があります。ここでは、反応時間を精密に制御すれば超臨界水のみで収率が急激に上がるということを強調すべく、従来法の収率にはあえて言及しませんでした。議論4 電磁誘導のメリット質問(原田 晃)「3.2高圧マイクロ熱交換器」の電磁誘導のメリットは何でしょうか。今回は「大きさ」で不採用になったとのことですが、どういうときはこちらのほうが優れているのでしょうか。回答(鈴木 明)直接通電と比べて、電磁誘導のメリットは漏電対策が不要であること、誘導コイルの巻き方により加熱強度を変えられることなどと考えられます。どちらが良いかはケースバイケースですが、誘導コイルを必要としないため、マイクロデバイス化には直接通電の方が優れていると考えています。
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