Vol.3 No.2 2010
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研究論文:サービス工学としてのサイバーアシスト(中島ほか)−97−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)念である。彼は情報のフィードバックによる制御系の概念を打ち出した。我々は街にこのような情報フィードバック系(神経系)を与えたい。中枢神経系は高度な情報処理を行なうし、末梢神経系はセンサー情報の伝達や人間との情報通信を行なう。そのような動きはすでに始まっている。インターネットを始めとする情報インフラの提供により、一般人が世界中の情報を容易に入手できるようになってきた。ネットワークの利便性は今後ますます高まって行くように思う。また、携帯端末の普及により、個人が情報処理装置を持ち歩き、それを通して社会の情報システムと対話することが日常的になると予想される。(中略)我々が従来別の手段で行なっていたことをインターネットで行なえるようになったこと(例えば商品を買うことやホテルや航空機の予約等)にとどまらず、情報処理の助けによって初めて可能となったことも多い。更にその結果として、情報の選別、セキュリティ、プライバシー等の問題が新しく浮上してくることも考えられる。それらを解決するために個人に適応した情報処理システムが必要であり、パーソナルエージェントの研究も開始されている。個人のプライバシーを確保しつつ情報洪水の中から自分に必要な情報を選別し、安全に通信する技術が問われるのである。もちろん、法規制等の社会制度の大幅な見直しが必要であるが、技術者としても、そういった社会設計の道具として何が提供できるのかを考えておく必要がある。上記の論説はサイバーアシスト研究センター(Cyber Assist Research Center。以下CARC)設立前のもので、他にデジタル・シティー[3]等を含む広い文脈のものであった。概念的には情報処理が関連する(あるいは、関連しうる)人間生活のあらゆる場面を包含する。たとえば、(空や海を含むが)典型的にはITS(知的交通システム)に代表される地上交通網のためのインフラや情報システム、都市設計や都市の情報システム、行政サービスや行政自体のためのシステム、遠隔医療システム、観光情報のためのインフラ等である。都市の神経網という意味ではビルや道路、橋梁等の構造物に歪みセンサー等を埋め込み、地震による被害を実時間測定するといったことも含まれる。あまりにも広範囲にわたりすぎるため、少し後の論説[4]では個人用情報機器とそれに関連する技術に絞り込み、以下のように記述されている:サイバーアシスト(Cyber Assist)プロジェクトは、すべての人々が生活のあらゆる場面で状況に即した支援を情報技術に基づいて受けられる社会の構築を目指す。以前の情報技術は、机上のコンピュータを通じてしか利用できなかった。最近はモバイル機器の普及によって利用範囲が広がってきたが、それでもなお、一部の人々が生活の特定の場面で利用できるに過ぎない。モバイル/ユビキタス情報技術を用いて、「今ここで」使える、生きた情報にいつでもどこでも誰にでもアクセスできる環境を創ることにより、社会全体を活性化することができる。黙っていてもスケジュールに合わせて切符を買ってくれたり、ショッピングモールの中を道案内してくれたり、隣席の人が小学校時代の同級生であることを教えてくれたりするサービスを可能にすることによって、われわれの生活を単に便利にするだけでなく、実世界での絆を結び、深めるような、物質的な面に限らない豊かさの支援を実現したい。CARC活動当時、一般的に使われていたキーワードは「いつでも・どこでも・誰にでも」であった。これはいかなる状況でも情報通信機器にアクセスでき、そのサービスを享受できることを意味する。それに留まらず、サービスの状況依存性を強調して「今ここで」としたのは先見の明である。現在は両方のキーワードが使われるようになりつつある。すなわち、いついかなる状況においても、その状況に適したサービスを提供することを重要視している。従来の情報技術はコンピュータを介してアクセスできるデジタル世界にほぼ限定されていたが、われわれ人間の生活は実世界で営まれている。したがって、情報技術の利用可能な場面をすべての人々の生活のあらゆる側面に拡張するということは、デジタルな情報を実世界に密接にグラウンディングすることを意味する。実世界とは人間にとって意味のある世界であり、モノや個人や社会が織り成すリアリティの総体である。グラウンディング(grounding; 接地)とは、デジタルな世界とこの実世界との間で意味や状況を共有するということである。物理的位置の計測やコンテンツの意味構造化等の情報通信インフラに基づいてグラウンディングを実現し、それによって、実世界にある人やモノの間の絆を支援しようというのがサイバーアシストの構想といえる(図1)[4]。セマンティックウェブユビキタスコンピューティング人物実世界デジタル世界情報サイバーアシストプロジェクトの目標:「今、ここで、 私に」サービスを提供するためにデジタル世界を実世界にグラウンドすることサイバー世界図1 サイバーアシストの研究目標
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