Vol.3 No.2 2010
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研究論文:コンパクトプロセスの構築(鈴木ほか)−139−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)ナイロンの原料であるεカプロラクタムの合成は、従来濃硫酸を酸触媒としてシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位反応で行われている。しかし、この合成方法では、使用後の濃硫酸をアンモニアで中和する必要があり、その結果、大量の硫酸アンモニウムが発生、その処分が環境上・経済上問題となっていた。これに対し、超臨界水の酸触媒機能を利用してベックマン転位反応を行なう方法が提案された[5][8]。実験結果を表1に示す。反応条件は400 ℃・40 MPaと同一であるが、バッチ操作では数%の収率に留まり、連続マイクロ反応では、80 %以上と飛躍的に収率が増大した。この違いは反応時間(ここでは室温から反応温度までの到達時間+反応温度での保持時間)にあり、バッチ操作では昇温速度が遅いため、昇温過程で原料のシクロヘキサノンオキシムがシクロヘキサノンに分解されてしまうことが原因であった。これに対し、連続マイクロ反応では原料に超臨界水を直接混合することで加熱を行っており、極めて短時間のうちに反応温度まで昇温できたためベックマン転位反応が主に進行し、εカプロラクタムが高収率で合成された。これは、明らかに、マイクロ反応場と超臨界水とを組み合わせることにより単独では成し得なかった効果が得られたことを示しており、有機合成反応における超臨界水とマイクロ反応場との融合の結果である。これ以降、超臨界水に加え、臨界点以下の高温高圧水の領域を含め数多くの実験的な検討が行われ、水を用いた有機合成の可能性が大きく拓けた。その後の実用化への課題は、原料物質の反応場への急速な投入(すなわち急速昇温)と生成物の反応場からの急速な離脱(急速冷却)の効率的な実現であった。3 高温高圧マイクロデバイスと高圧マイクロエンジニアリングの確立前章で議論した急速熱交換(急速加熱および急速冷却)を達成するためには、εカプロラクタム合成で採用された直接熱交換方式か、あるいは極めて高効率な間接熱交換方式の開発が必要であった。直接熱交換方式とは、加熱の場合、常温の原料と超臨界水との直接的な混合により目的温度までの加熱を達成するものであり、冷却の場合、高温高圧反応物に冷却水を直接混合することにより必要な温度(反応の停止する温度)までの冷却を行う。必要な超臨界水および冷却水の温度や質量流量は熱収支計算から決定される。直接熱交換方式における熱交換速度は、原料と超臨界水、あるいは高温高圧反応物と冷却水とがいかに混合されて平衡温度に到達するかで決まるため、混合器の混合性能に依存する。したがって、直接熱交換方式は急速混合が可能な高圧マイクロ混合器の開発に帰着する。一方、間接熱交換方式で急速熱交換がどこまで可能かについては具体的な伝熱コンセプトに基づき後述する。3.1 高圧マイクロ混合器(直接熱交換方式)超臨界水反応の熱交換方式として高圧マイクロ混合器が使われる場合、超臨界水は粘性係数が常温の値に比べ10分の1以下と低く、かつ高流量が設定できることから、高レイノルズ数の乱流条件を適用しやすい。常圧付近のマイクロ操作では、圧力損失を大きくとることができないため流量を低くせざるを得ないが、高圧マイクロ操作では、混合器で生じる許容圧力損失に比較的余裕があるため高流量が設定できる。したがって、高圧マイクロ混合器は従来のマイクロ混合器のように層流条件で拡散を制御する混合方式とは異なり、強制乱流をベースとした混合方式を採用している。具体的な混合器構造としては、市販のT字型継手、スワール流れを積極的に利用したスワールミキサー、そして混合部で2液が衝突する中心衝突型混合器などが挙げられる。図2にT字型継手の例として、Swagelok社の一般型SS-100-3(STD TEE)、マイクロ型SS-1F0-3GC(LDV TEE)を示した。Standard T字型継手(STD TEE)の流路内径1.3 mmと比べ、Low Dead Volume T字型継手(LDV TEE)の流路内径は300μmと小さく、大きなレイノルズ数(乱流効果)に基づく良好な混合結果が報告されている[9]。混合性能の比較・評価として、図3に2種類のT字継手の数値計算結果を示す。計算条件は圧力が30 MPa一定で、超臨界水は463 ℃、33 g/min、原料は15 ℃、12 g/minで供給され、混合後温度は400 ℃である。いずれ83.00.62540400連続マイクロ反応1.918040400バッチ反応収率(%)反応時間 (sec)反応圧力(MPa)反応温度(℃)実験装置バッチ反応では収率低いが、連続マイクロ反応では高収率達成。反応時間(加熱時間含む)の違いによる差が顕著。ZeroL=1.3 mmID 0.3 mmZeroL=9.2 mmID 1.3 mmSTD TEE(Standard T字継手)STD TEE(Standard T字継手)LDV TEE(Low Dead Volume T字継手)LDV TEE(Low Dead Volume T字継手)表1 超臨界水によるε−カプロラクタム合成(実験結果)バッチ反応では収率低いが、連続マイクロ反応では高収率達成。反応時間(加熱時間含む)の違いによる差が顕著。図2 T字継手(STD、LDV)市販の1/16インチT字継手(左が標準タイプ、右が混合流路を0.3 mmとしたマイクロタイプ)

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