Vol.3 No.2 2010
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研究論文:コンパクトプロセスの構築(鈴木ほか)−138−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)られる。ここで言うコンパクトプロセスとは、資源・エネルギー循環の容易な低環境負荷型の安全で小回りのきく効率的なプロセスのことで、高速で制御性の高い機能を有しており、分散適量生産方式を実現することができる。マイクロリアクタはコンパクト性や反応場の精密な制御可能性などから分散適量生産方式のコア技術として大きな期待を集めている[1]。一般的には幅数μm~数百μmのマイクロ空間内の化学反応を行なうための装置を指し、その目的・機能により、マイクロ反応器、マイクロ混合器、マイクロ熱交換器などに分類される。マイクロリアクタは単位体積当たりの表面積(比表面積)が大きいため、熱交換の効率が極めて高くなり、急速温度操作(加熱・冷却)や精密温度制御が可能となる。また、リアクタ比表面積が大きいことは、界面での反応が効率よく起こることを意味する。さらに、マイクロ流路は拡散距離が短いことから分子拡散による混合が急速に進行するため、高速かつ効率的な混合が行なわれる。これらの特徴は、コンパクトプロセスに求められる条件(高速で制御性が高い)と良く合致している。しかし、従来のマイクロリアクタは加工が容易なシリコン、ガラス、プラスチック系の材料が主体で構成されていて、以下に述べるような、マイクロリアクタの特性をより効果的に利用できる高温・高圧環境下では使用できない。現在、高温高圧に耐えられるマイクロリアクタの技術は確立されていない。一方、超臨界流体は臨界点(飽和蒸気圧曲線の終点)を越えた流体として定義され、物質の3態、固体、液体、気体のどれにも属さない第4の流体と言われる。しかし特別な流体ではなく、高い密度に圧縮しても液化することのない不凝縮性の流体として理解される。この超臨界流体は、温度・圧力を変化させることにより密度を気体から液体相当まで大きく連続的に変えることができ、それに応じて粘性、拡散係数などの輸送物性や誘電率、イオン積などの溶媒物性が大きく変化する[2][3]。特に、臨界点(374 ℃・22 MPa)を越えた水である超臨界水の誘電率は有機溶媒並であり、高温で唯一安定な反応溶媒と考えることができる。また、イオン積を10−10程度まで高くすることが可能であり、超臨界水に酸・塩基触媒の役割を期待することができる。これら物性は、超臨界水の高速化学反応への適用を示唆するものであり、超臨界水利用技術も分散適量生産方式のコア技術として期待されている。2 マイクロリアクタと超臨界水の融合2002年頃まで、超臨界水・高温高圧水による化学プロセスは、有機化合物の分解(加水分解、熱分解など)は可能だが、合成には不向きであるというのが常識であった[4]。事実、物理化学的あるいは分光学的には、超臨界水に通常の水には無い酸・塩基性が示されてきたものの、実際にバッチ式反応装置を用いて超臨界水有機合成実験を行っても、全く目的物質が得られなかったり、あるいは収率がとても低かったりという結果の連続であった[5]-[7]。このことから、超臨界水を有機合成に利用することは極めて困難であると考えられ、超臨界水応用の研究はしばらくの間停滞期(死の谷)に入っていた。当然その間、関連研究資金も先細りとなり、仕方なく使い古された液体クロマトグラフィ用ポンプや高圧細管を用いて自前で加工を繰り返しながらラボスケールで小型の流通式反応装置を製作し反応を行っていたところ、突然、収率が向上することが分かった。詳細に調べていくと、上述の困難の原因が、反応温度における保持時間を厳密に制御しても、その反応温度に到達するまでの加熱時間(あるいは冷却時間)が長ければ、その加熱域(冷却域)で原料や目的生成物の分解、副反応などが起こり、結果として目的生成物が得られないことにある、と理解されるに至って研究は急速に進展した[8]。図1は、本反応における急速熱交換の重要性をイメージ図として表現している。超臨界水有機合成の発端となった反応例を以下に紹介する。 温度温度バッチ反応既存連続プロセス反応時間 <数秒主反応時間0.01秒以下急速冷却0.01秒以下急速加熱高度に制御された高温高圧反応の実現反応時間 <数秒主反応時間副反応・分解反応加熱速度が遅く副反応・分解反応冷却速度遅く図1 超臨界水有機合成における開発ポイント(急速熱交換の必要性)超臨界水は反応性が高く加熱・冷却に時間がかかると、副反応・分解反応が起こり主反応が阻害される。反応場への急速な投入・離脱が必須の条件。
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