Vol.3 No.2 2010
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研究論文:学問分野を超えた「システムデザイン・マネジメント学」の大学院教育の構築(神武ほか)−122−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)術システムから社会システムにわたる多様なシステムであるが、システムのライフサイクルを重視し、様々なステークホルダーからの要請に合致したデザインやマネジメントを行い、その成果の検証や有効性の確認までを研究論文にまとめるという点は全ての修士研究に共通しており、その点がSDM研究科での研究の特徴である。なお、SDM学に関連する博士論文の成果も出始めている[20]。4.4 産業界や海外機関との連携産業界の実務者等を対象とした対外セミナーや講習会を定期的に行っている。また、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)とは、SDM学に関する協力協定を締結し、教育ならびに研究における連携を進めている。その一つとして、教員が、連携協定を結んでいるJAXAの職員に対してSDM学に関連するセミナーを提供しており、2008年度は延べ93名が受講した。宇宙開発分野で生じている様々な課題を共有するとともに、SMD研究科にて体系化された講義を提供し、それぞれの課題に対する解決方法についての議論を行った。受講者にアンケートを行なった結果、いずれのセミナーにおいても高い満足度が得られていた。特に、システムとしての全体的、包括的な視点に関する講義についての高評価が目立った。また、前述のStanfordおよびMITとのALPSの講義の構築とワークショップの実施以外にも海外との連携を積極的に推進している。TU Delft(オランダ)やStevens Institute Technology(アメリカ)、ETH(スイス)、INSA(フランス)等と教育カリキュラムの相互利用等についての連携契約を締結し、TU Delftとは修士課程学生をそれぞれ複数名双方の大学に滞在させ、国際連携教育の成果を挙げている。さらに、KUSTAR(アブダビ)やAMET(インド)、エジプト日本科学技術大学より、それぞれの国の産業界からのニーズに対応したSDM学の構築や各大学での教育実施の支援要請を受け、調整を進めている。これらにより、SDM学教育の世界的な需要があることを確認している。4.5 学生による評価2008年度春学期入学の修士課程2年生36名を対象に、入学してから1年の間にSDM研究科の教育によって向上したと考えられる能力とその程度、満足している経験の内容とその程度について意識調査を行った。また、その調査結果の比較として、慶應義塾大学大学院理工学研究科機械工学系の修士課程2年生23名を対象に同様の意識調査を行った。各々の項目に対して6段階での評価を記入できる形とした。各項目に対する両研究科での調査結果をもとにt検定を実施した。有意水準を1 %とし、評価結果に優位差があったものを図13に示す。各項目に対する上側のグラフがSDM研究科学生から得た調査結果の平均値および標準偏差、下側のグラフが理工学研究科学生から得た調査結果の平均値および標準偏差である。この結果により、SDM研究科の教育・研究カリキュラムが、少なくとも学生の自己評価の範囲では、表1に示した産業界から理系大学・大学院への期待に応える教育・研究を実施できていることがわかる。「論理的でわかりやすい論文や報告書を作成する文書作成能力」についてSDM研究科の学生による自己評価が低いことは、今後改善すべき課題の一つである。アンケートの対象が2年生になったばかりの修士課程学生であったため、1年生時には文書を作成することよりも課題の現場へ行くなど、行動することを重視しているSDM研究科の教育を受講した学生は文書作成能力の自己評価が低くなったのではないかと考えられる。これに対応し、コミュニケーション能力を向上させる講義を強化する予定である。なお、文書作成については、ALPSではチーム作業にて英語で報告書を作成する経験をし、修士論文では個人作業にて日本語で作成する経験をする。大規模・複雑システムの問題を解決するために必要となる基本的な考え方や手法は、必修科目群によって全学生がある程度身につけられていると感じている。一方、その考え方や手法を社会・産業界で適切に使いこなすには、必修科目以外の科目をSDM研究科および他の大学や大学院で受講し、学生自らが研究や実際の業務で試行や適用を行う必要があり、その点での教育の成果の大きさは各学生の問題意識の強さ、視野の広さ、行動力の有無等に依存するところが大きい。この課題全てを大学院教育で解決することは難しいが、SDM研究科による社会・産業界との密接な連携や各指導教員による学生への個別指導、多様な人材で構成される学生同士の様々な交流を更に促進することで解決できることも多いと考えている。とてもとてもかなりかなりやややや向上しなかった/満足していない向上した/満足しているSDM研究科理工学研究科文系、理系の枠を超えた分野横断的な多様な人材の交流様々な社会ニーズを理解したり、自分のテーマの位置づけを明確化する能力創造性開発手法やディスカッションに基づき新たなアイデアを想像する能力自分の専門以外の分野の広い知識・能力学生と教員のモチベーションの高い活気のある講義「木を見て森も見る」システム思考力ディスカッションやグループワークを企画・運営するリーダーシップ能力専門的な研究を遂行する能力倫理的でわかりやすい論文や報告書を作成する文書作成能力専門分野における深い知識や高度な専門能力図13 SDM学生(上側棒グラフ)および理工系学生(下側棒グラフ)の意識比較
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